狼まであと何秒?





モナさんは人を名前で呼ぶのが好きらしい。


ルカ君は『ルカ君』だし、イリアさんは『イリアちゃん』だし、スパーダ君もアンジュさんもリカルドさんもエルマーナも、キュキュでさえも名前で呼ばれているのに、いまだに『タウさん』とファミリーネームで呼ばれているのは僕だけだ。


一度それはどうしてなのかとルカ君が訪ねている場所に出会わせたけど、彼女は笑って誤魔化すだけで、一人だけ壁を作られているみたいで面白くない。


今日も買い出しなり散策なりで皆出かけていて僕らはまた二人きりだ。
モナさん手元の本に目線を落としていて、この間のような視線を今度は僕が送る番だった。
こうして眺めてみれば意外な面なども見えてくる。
例えば、腕力で黙らせる割に華奢なところとか、ね。


普段じっくりと観察することなんてないから色々な発見があって面白いなと思っていれば、手に持った本の陰から此方を窺うように、じとっとした目で睨みつけてきた彼女から抗議の声が上がる。



「そんなに見られたら穴あきそう。」
「自分はするのに?」
「人にされるのは慣れてないから嫌ー。」
「ふぅん…」



何を言われても視線を逸らさないでいると居心地が悪いのか身動ぎした後、諦めたように本を閉じた。



「読んでて良いのに。」
「なんか今日のタウさん意地悪でやだ!」



なんか腹立つと言って彼女は机に突っ伏してしまった。



「意地悪ついでに…聞いていいかな。どうして、僕だけ名前で呼んでくれないの?」
「…タウさんがそういう事気にするとは思ってなかった。」
「まぁ、女々しいとは思うけど、気になるからね。」
「別に、大きな理由がある訳じゃないんだけど…うぅ…」



机に顔を伏したままの彼女は少し目線を上げて僕を見た後、頭を抱えるようにまた目線を下げた。
此処まで動揺する彼女は珍しくて、悪戯心が沸いてくる。
たまには押してみようか。



「僕も名前で呼んでよ。」
「ダメ!無理!!」
「…どうして?」



そこまで断言されると流石に少し傷ついて、自分の行動を後悔し始めるが、動き出した彼女の行動によってそれは全て吹き飛んだ。



「だって、恥ずかしい…、呼んだ瞬間タウさんの顔一生見れなくなりそうだしッ、」



絶対無理!と叫んでから部屋の隅まで走って行って、耳まで赤くしてしゃがみ込んだ彼女のどこまでが本気なのかわからない。


いっそ僕が本気になっても構わないのかな?






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