無意識のゼロセンチ





「腕によりを掛けてぇ、作りましたぁー。」


語尾を伸ばしてなぜかその場で回りだした彼女はエプロンを身に着けていて、そういえば今日の食事当番だったなと思い出す。
食べ盛りの子供たちがかけていく後ろを歩いて空いた席に腰を落ち着ければ、隣の席に置かれる山盛りのトマト。
他の人達の前にはそれぞれマーボーカレーが配膳されていて、僕の前にもマーボーカレー。隣の席に座るモナさんの前にだけトマト。しかも山盛りのだ。



「…相変わらずだね。」
「美味しいじゃないですか、トマト。」



まるで語尾にハートマークを付けているような声色で彼女は次々とトマトを口元に運んでいく。
僕の顔は引き攣っては居ないだろうか。正直ドン引きだ。



「タウさんも食べますか、トマト。」
「遠慮しておくよ。」



フォークに突き刺して僕の口元に寄せられたものがあの赤い悪魔じゃなければ口を開けたかもしれない。けど、現実は非情だ。
匂いを感じるのも嫌で顔を背ければ、回ってきた手から放たれる馬鹿力で頬を掴まれまた赤い悪魔と向き合わされる。



「タウさん、あーん。」
「嫌だ!!絶対に嫌だ!!!」



全力で拒絶する僕にじりじりと迫る赤い悪魔とモナさん。
なんだこれ、虐めだ。



「ほらほらタウさん諦めて楽になっちゃいなよー。」



じわじわと近づいてくる赤い悪魔。もう既にゼロ距離だ。口は意地でも開かない。




「モナねぇちゃんもコンウェイのおっちゃんもいちゃつくんなら余所でやってぇな。」



二人の世界って感じやでーと言うエルマーナの言葉にはっと我に返る。チラリと辺りを見渡せば呆れるエルマーナに困り顔のルカ君、スパーダ君とイリアさんは面白そうだといつもの笑いを見せ、その他三人はこっちを見てすら居ない。




「ねぇ、この空気どうするの。」
「あっはっはーどうしましょうかねぇ。」




とりあえず笑って誤魔化しかないかなとトマトを自分の口に突っ込んだ彼女はそのまま黙々と片付けていって、僕も冷め始めたマーボーカレーにようやくスプーンを突っ込んだ。




空気はもちろん微妙なままだ。





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