7 とおくのかみさま
神奈川県から千葉県へ。
あの女は義務教育が終わった途端、義務は果たしたとばかりに姿を消した。 一応有る自宅に帰ってくる事も殆ど無いから、転校の手続きも簡単だ。 自分で書いてハンコを押すだけだし。
そんなわけで、一年生の三学期半ばと言う微妙な時期に、親の都合と言う名目で俺は千葉の総北高校へ編入したのであった、まる。
そして、靖友と違ってグレる事無く優等生だった俺は特に何も問題を起こすこと無く、気がつけば高校生活二年目の夏を迎えていた。
「俊哉、ボトルくれっショ!」 「んーすぐ行くから待って。」 「一人で持てんのかぁ?」 「手伝ってくれない熊さんは黙って。」 「重くは無いか?手伝おう。」 「ありがと。でも大丈夫、これぐらい運べないとマネージャーなんてやってられないよ。」
総北の自転車競技部はお人よしの集まりらしく、こんな俺でも受け入れてくれる。
手を伸ばしても声をかけても振り払われる事は無い。
あの女と靖友という狭い世界しか知らなかった俺には外には親切な人も居るという事は衝撃的だった。
靖友しか俺に優しくなかったから、知らなかったなぁ。
なんとなくあてつけで初めてみたマネージャー業も今じゃ部活の時間を楽しみにしている俺が居る。
インターハイで優勝をするのだと闘志を燃やす彼らの姿は、まるで、まるで中学生の時の靖友のようで、俺は目が離せなくなるのだ。
あぁ、駄目だ。もう靖友の事は忘れなきゃいけないのに…。 靖友が俺を捨てたんだ。 俺より自転車で先へ行く事を選んだんだ。
だから、俺も行くよ。 靖友が思いつかないくらい、遠くへ行くよ。
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