2 つれてってかみさま
甲子園に行ってヒーローになるのだと大志を抱いて慢心せず日々努力を重ねていた彼の身体は非情にも彼の夢を奪い、彼の心をベキベキと渾身の力でへし折って粉々に砕いてしまった。
ボールもグローブもバットもユニフォームも、彼の殆どを構築していたものは全て投げ捨てて、後ろを振り向く事をも恐れた彼はそのまま俺を置いて何処かへ行こうとしている。 目的も何も無いままただひたすら戻れない過去を捨て切る為に、俺を捨てるのだ、
あの女のように。
だから、俺は初めて神様に俺の為の嘘を吐く事にした。
ボールもミットもバットもユニフォームも、靖友と居られないのなら必要無いよね。 全部いらない。
「あのね、違和感があったから行ってきたんだ、病院。それで、俺も腰が駄目んなっちゃった。」
靖友は目を見開いたまま無言のままだ。 何も答えない。 ううん、何も答えなくて良いよ。
「ねぇ、野球が出来ない俺だったら、傍に居ても良いかなぁ。」
にこっと笑ってから少し目を伏せて悲しげな顔を見せて言えば、目の前の綺麗な顔がひくりと歪んだ。その顔たまんない。
俺も連れてってよ、神様。
置いてくなんて、許さない。
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