かみさまのはなし | ナノ



1 おれのかみさま


きっとその辺に転がる空き缶くらいどこにでもある筈の、誰にも注目される事の無い程良くある話なのだ。

股の緩い馬鹿な女の其処から望まぬ生を受けて、誰からも愛されることなんて無く膝を抱えて縮こまった汚い子供が愛を渇望するだけの三文芝居も良いところな、なんでもない俺にとっての日常が転がっていたのだ。

ボロボロでかろうじて形を保っている状態の洋服を着せられてドロドロの手足を持つあの頃の俺は酷く惨めで滑稽に見えたのだろうか、いつも一人で遠巻きにヒソヒソと囁かれてばかりで、外に出るのは好きじゃ無かった。

それでも家に居られなかったから、グラウンドの隅で手足を抱えて息を潜めて夜を待つのが俺の日常。それしか知らなかった、当たり前のことだったんだよ。



だからね、本当に驚いたんだ。



こんなボロボロの汚い子供に掛けられる声があるなんて思ってなかったから。

差し伸べられる手が有るなんて思わなかったから。



だって、誰も俺を愛してはくれなかったから。
必要としてくれなかったから。



「ねぇ、俺、一緒に居て良いの?」
「っせ!早く来いノロマ!!」



触っていいの?汚してしまうよ?


どうしても声に出せ無くて、目線で訴えれば、舌打ちの後、乱暴に掴まれた。

ぐだぐだうるせーと言いながら俺の腕を掴み離さない白い手を、恐る恐る反対側の手で触れれば彼は満足そうに頷いてから、キャッチボールすんぞと笑った。




これが俺の世界の全て。




荒北靖友、俺の神様。









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