10 すてれなかったかみさま
「箱根学園自転車部主将、福富寿一だ。」
金城に付き添って教室から部室へ向かういつもの日常の1ページは招かれざる客のせいで音も立てずに崩壊した。
謝罪? 卑劣な行為? 金城の怪我は事故じゃ無かったの? だって、金城はそう言ってたのに…
「俺は、お前を許さない!!」 「俊哉…、」
殆ど無意識に口から言葉が飛び出した。 唇を噛みしめて睨みつける。 目が合えば少しだけ眉毛の表情が動いた。
「お前は、…北村か?」 「…お前はいつも俺が見てないところで俺の大事にしてるのを壊すんだ…。金城や他の部員が許しても、俺はお前を許さない。お前は卑怯だ。」
感情的に言葉を投げつける。
「あぁ、許してもらえるとは思って居ない。俺はしてはいけない事をした。」
眉毛の表情はもう動かない。 ただ深々と頭を下げる。 それでさえ、眉毛のパフォーマンスにしか見えない俺は相当頭に血が上っているのだろう。
「落ち着け、俊哉。」 「…ごめん、金城。頭冷やしてくる。俺が戻ってくる前に帰れよ眉毛。」
空きボトルの入ったカゴを両手で抱えて、出口へ向かう途中眉毛に釘をさすのを忘れない。
「北村、一つだけ良いだろうか。」 「やだ。」 「俊哉。」
眉毛の言葉に即答で返せば、金城の諌める声が被さった。
「…なに。」
大変不本意ですが聞いてあげても良いよと続ければ、少し躊躇った後に眉毛が口を開いた。
「荒北が、気にしていたぞ。」
息が詰まった。
「ッ、嘘だ!やすッ…、荒北の名前を出せば、俺が黙ると思ったか?帰れよッ、帰れ!二度と俺の前に出てくるなッ、お前なんて、お前なんて大嫌いだ!」
ガツンと頭を打たれたような衝撃を感じた俺は、咄嗟に空きボトルをカゴごと投げつけて、混乱した頭のままで部室を飛び出した。
靖友が俺を心配なんてしているはず無いのに俺は本当にどうかしている。 靖友がまだ俺を気にしてくれているのならとても嬉しいだなんて、本当に馬鹿だね。
「だって、靖友が、俺を捨てたんだ…、捨てたんだよ…。」
どんなに夢見たって、それだけは紛れも無い事実なんだから。
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