「尚ー、尚くーん、尚ちゃーん!!!!ちょっと聞いて聞いて聞いてぇぇぇぇぇぇ!!!」
放課後、生徒会室。
いつものように、奇声と共に開けられる扉。
憂鬱。
机に向かって書類を片付けるオレの前に走ってきて、至極楽しそうに笑う。
苛々する。
血の繋がった兄弟じゃなければとっくに縁を切っているであろうオレの弟は、オレのことなどお構いなしに今日は何処にデートだとか、昨日はこんなに可愛らしかったのだなんて彼の恋人とののろけ話を捲くし立てる。
本当に、憂鬱。
本来なら弟の恋を応援して喜んでやりたいのに、俺は素直にこの恋を応援出来ない。
良かったじゃないか、おめでとう。
そんな簡単な言葉でさえ上手く口に出来なくて、ありきたりな心にも無い祝いの言葉を口にすれば、花が咲いたように笑う弟。
嘘をついているという、罪悪感。
「じゃあ、約束あるし行くねー!!」
軽やかな足取りで走り去る弟を軽くてを振って見送ってからの重い溜め息。
弟の恋人は20歳の男性である。
同性愛と言う事に偏見は無い。
なぜなら俺もあの人が好きだから、だ。
漫画や小説等、フィクションの世界でありがちな双子の魔力と言うものを信じているわけでは無いが、同じような生活を続けていれば当然好みも似通ってくるわけで、いつもオレと弟は同じものを欲しがる事になる。
分け合える物は分け合って、ひとつしかない物は取り合ってばかり。
今回はいつものように弟が持っていってしまっただけ、思い聞かせてもただ虚しいだけ。
「恋は必ず叶わなければいけないのか…」
呟いた言葉は誰にも届く事無く、宙に浮いたまま。
答えを必要としているわけじゃない。
虚しい、苦しい、辛い、悲しい。
オレの方が先だったのに…
貴方を思うだけで胸が張り裂けそうになってしまうほどに貴方を想っているのに、どうしてかな、貴方に上手く伝わらない、よ。
想うだけの恋が、あっても良いじゃないか。
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