07



夜のサンルーム、俺のお気に入りの場所。
神城先輩も良く此処で本を読んでいるらしいが、夜になると、少し冷えるので、体調を崩さないように最近は自粛しているようだ。
(たまに星を見に来るらしいけど。)
だから、今、此処には、俺だけしか居ない。
此処は都会ともいえる場所だが、夜になると、明かりが消え始め、暗くなり、星が良く見える。
空が目前に迫ったような錯覚に襲われ、俺は一人ほくそ笑む。
(そんなことはありえないと知っているから。)
ためしに、伸ばしてみた手は空を掴む。

「遠いな。」

ありえないとは分かっていても、人間は何かしら期待してしまうものだ。

「…何をしている。」
「あっ、一之瀬先輩。先輩こそ。」

サンルームの扉を開けて、入ってきたのは一之瀬先輩。
そういえば、一度もまともに話した事無かったな。
噂では、凄く冷たい人らしいけど…
この人がどんな性格でも、俺に関係ないか。
噂は基本的に信じないし。

「俺は、星が綺麗だったから、少し見に来ただけだ。」
「先輩って意外とロマンチストなんですね。」
「そうかもな、そういうお前も同じだろう。」

先輩は、楽しそうに微笑んだ。
なんだ、冷たい人じゃないじゃないか。
やっぱり噂は噂だな。

「んー、まぁそんなとこですね。」

俺も精一杯愛想良く答える。
別に先輩嫌いじゃないし。
それでも、お互い多くを語らない性格なので、すぐに会話が途切れてしまう。
なんとなく一之瀬先輩の方へ目をやると、 一之瀬先輩は、黙って空を見つめていた。
…噂どおりの人って訳じゃなさそうだ。

「…座ったらどうですか?」
「ん?あぁ、失礼する。」

俺の座るベンチの隣を指差すと、先輩は頷いて座る。
別にいつ座っても良かったのに、遠慮してたのか。
…そんなはず無いか。

「…先輩、星座の名前、知ってます?」
「あぁ、ある程度はな。」

一之瀬先輩は、空を見上げながら答えた。
本当に今日の星は綺麗だ。

「じゃあ教えてくださいよ、俺、オリオン座くらいしか知らなくて。」
「知ってるだけましだろう。あぁ、北斗七星が見えるな。」
「あの、北斗の拳の?」
「その覚え方は感心しないが、そうだな。アレは大熊座の尾の部分になっている。」
「へー、北斗七星って言う正座じゃなかったんっすね。他にはどんなッ、きしゅッ!!」

盛大にくしゃみをして軽く体を震わせる。
春だからって油断して、シャツ1枚で出てきたのが悪かったんだろう。

「お開き、だな。」

そういって、一之瀬先輩は着ていたジャケットを俺の肩にかけてくれる。

「お前に風邪をひかれて、神城に移されると困るからな。」

そういって先輩は微笑んで、俺は、噂は真実じゃないと確信を得た。
この人は、冷たい人なんかじゃない。
ただ、人を選んでいるだけなんだ、と。

「ありがとうございます先輩。…また、星座教えてくださいね。」
「気が向けばな。」
「いいえ、約束です。拒否権なんて無しです。」
「横暴だな。まぁ、善処はしてやるよ。」

そう言ってサンルームから出る先輩の顔は楽しそうに緩んでて、俺も久しぶりに、表情が変わった。(気がする。)

偶然の事でも、最高の一瞬になる事を身をもって実感した。
肩に羽織ったジャケットが冷えた体を温めてくれる。


正しい夜の過ごし方




今度はもうすこし、温かい格好で行こう。
(そしたら先輩はたくさん星を教えてくれるだろうか。)
星座を勉強していけば、誉めてくれるだろうか。 
とりあえず、明日本屋に行こう。
神城先輩に本を借りるのもいいかもしれない。

その日は久しぶりに、楽しい気分で布団に入る事が出来た。




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