06




(なんだよ、あいつ。むかつく!!)

深水颯太、15歳。
誰とでも仲良くなれるから、嫌いな人なんて居ないだろ、って言われて、少し腹が立ってる。
僕にだって、嫌いな人ぐらい居る。
同じマンションに住んでいる、桜川エリカ。
ひとつ上だけど、先輩だなんておもってやんない。
だって、あの人はヒトミ先輩を泣かしたんだ。
理由は良く分かんなかったけど、僕には一方的にヒトミ先輩に対して、あの人が怒鳴りつけてるようにしか見えなかった。
だから嫌い。
ヒトミ先輩を泣かすなんて許せない。

「あっ。」
「…あぁ。」

ずっと、会わないようにって避け続けてきたのに、こんなところで会うなんて思ってなかった。
黒いゴミ袋を、投げ入れて、しばしの沈黙。
あの人が、上からネットをかけるのを見る。

苛々する。
何でここまで苛々するかなんて分からないけど、苛々する。

「…言えば。」
「は?」

僕の聞き違いじゃなければ、この人何か言ったよね。
聞き取れなくて聞き返す。

「…言いたい事あるんだろ、言えば。」

先輩は、ゴミ捨て場の扉を閉めて、無表情に言う。
こういうところが嫌いなんだ。

「…じゃあ、言うけど。どうしてヒトミ先輩泣かせるような事しか言わないの?」

始めてみたときからずっと気になってた。
ヒトミ先輩と鷹士さんは仲がいいのに、(むしろ良すぎるくらいだ。)
ヒトミ先輩とこの人、鷹士さんとこの人が、仲良く歩いていたり、話しているのを見たことが無い。
それどころか、お互い顔を合わせれば喧嘩をしているといった風で、本当に兄妹なのかと疑ってしまう。

「…必ずしも目に見えるものが真実じゃない。ってのは、分かるな。人間ってのは勝手な生き物で、必ず自分の都合のいいようにしか解釈しない。…他人から見れば、俺が一方的にヒトミを嫌ってるように見えるだろうな。そういうのは理解してる。ただ、他人が俺たち双子の事をとやかく言うのは気に食わないね。今までに何があったかも、どうして俺がそんな態度を取るようになったかも知らないやつに買ったな憶測でものをいわれたくない。君だってそうだろう、勝手な想像で、どちらが悪いとか理解してないやつに、自分だけが悪者扱いされて、責められて、不愉快にならないと言い切れるのか?」
「…けどッ、もう少し言い方とかがあるんじゃないの?」
「それで、あいつが気付くなら俺だって多少は気を使うね。ただ、ずっと気が付かないんだよあいつは。回りに守られて、自分が幸せな事に気が付かないで。俺から全てを奪ってくのに、何も感じずに笑ってるんだ。自分が何をしているかなんて一生気付かないんだよ。」
「本当に、ヒトミ先輩がそんなこと?」
「家族じゃないと分からない面もあるんだよ。まぁ、殆ど俺の主観でしかねぇけどな。…他に何も無いか?」
「…無い。」
「じゃあ良い。ヒトミの事が好きなら、ヒトミだけを見てれば良い。俺の事は最初からいない事にしておけば良い。知らなくていいことを知ろうとするんじゃねぇぞ。」

後悔する事になんぞ、その一言を吐き捨てて、先輩は学校へと向かっていった。

でも、僕は見逃さなかった。
ヒトミ先輩について先輩が語ってるとき、泣きそうになってた事を。

一人で痛みを抱えてる先輩は凄く痛々しく見えて、 頼るべき相手も見つけられなくて、ずっと一人で苦しんでいたのかなと思うと、不覚にも涙が出た。

「そんなの、言ってくれなきゃ分かるはず無いじゃないか。」

だって、僕らは想像だけで、判断するしか出来ないんだから。
勝手な憶測や、間違った正義感だけで、先輩を攻めていた自分をひどく憎んだ。
僕は何も見ていなかったんだ。

砂を噛むように、
僕らは青春を浪費 する。



その後、学校へ行こうとする雅紀先輩に発見されるまで、僕はその場で涙を流し続けた。



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