05



俺はその日も何時ものように少し遅めの時間に校門を出た。
(別段新しい事なんて無い。)
その日も変わりなく、いつものように終わるはずだった。
門の前であの人を見付けるまでは。

マンションの近くに来た頃、マンションのエントランスで苦しそうにうめく人影を見つけた。

「…ッ!?神城先輩!」

その人は、学園No,5である神城綾人先輩で、俺は先輩の下へ駆け寄った。
座り込んで苦しそうに胸を押さえている人を放って置けるほど、俺は冷たくは無いようだ。
回りを軽く見渡すが誰も居ない。

「先輩大丈夫ですか。」

先輩の背中を擦りながら、一階の部屋に目を走らせる。
若月先生の部屋には明かりが灯っていない。

(ちっ、まだ帰ってきてねーのかよ。)

先輩の背中を擦りながら、携帯を取り出しリダイアルで、すぐに呼び出し音が聞こえてきた。

「若月先生に連絡しますから、先輩は楽にしてて下さい。」

中々出ない相手に少し苛立ちを覚える。

「君はエリカちゃんだったかな?大丈夫だから。」

そんな俺に先輩は普段どおりに話をしようとする。
態度は何とかなっても、悪くなった顔色は気合だけじゃどうにもならないだろう。

「そんな顔で言われても説得力無いですよ。別に人に言いふらしたりしませんし。…肩捕まってください。落ち着くまで俺の部屋で休んでください。此処から一番近いんで。」

先輩の鞄を小脇に抱えて、先輩を立ち上がらせる。
思ったとおり、先輩は軽い。

(ちゃんと食べてんのかなこの人…。)

「でも、悪いよ。気にしないで?」

それでも首を横に振る先輩に俺は呆れてしまう。
それと同時に悲しくもある。

ふぅ、と溜め息をついたと同時に、持っていた携帯が通話を開始した事を知らせる。

「どうした、エリカ。お前から電話なんて珍しい。」
「緊急事態だ。すぐにマンションに帰ってくれ。」
「はぁ?俺まだ仕事が…。」
「…神城先輩が倒れた。本人は病院に行きたく無さそうだし、俺の部屋で休ませる。適切な処置なんてわかんねーし、あんたが居てくれた方が助かる。」
「…すぐ向う。頼んだぞ。」
「了解。」

ピッ、とボタンを押して通話を終了させる。
息を吸い込んで、先輩のほうに向き直る。

「…俺の友達も病気で入院してるんですよ。入退院繰り返していつもは笑って元気そうなのに発作が始まると苦しそうで辛そうで。それなのに俺や夏美に笑って気にすんな大丈夫だって言ってさ…、大丈夫じゃねーくせに。だから俺は病人の大丈夫は聞かないんです。おとなしく言うこと聞いて下さい。。」
「…ごめんねエリカちゃん。面倒かけて。」
「面倒だなんて思わないんで謝らないで下さい。」
「うん、そうだね。ありがとう。」
「どういたしまして。…後エリカちゃんは勘弁してください先輩。エリカで良いんで。」
「ありがとう。エリカ。」

最後にそう呟いて先輩は目をつむる。
苦しそうな顔は相変わらずで、こっちの方が辛くなる。
だから俺はこの人が嫌いなんだ。
人に気を使って当たり障りのない回答しか出さなくて。
回りなんか気にしないで、自分一人だけで苦しむんだ。

「そんなの許さない。」

ヨシヒサには夏美が居るけど先輩にはまだ誰も居ない。

「それなら先輩がちゃんと特別を見付けられるまで、俺が先輩を助けます。」

例えそれがエゴだとしても。

「俺、先輩の事嫌いじゃないんで。」

俺に出来る事で、先輩が救われるのなら、なんでもしますよ。
それが、ヨシヒサに対する、罪の意識からくるものでも。

「仕方ないじゃないか…。」

俺に出来る事なんて小さなことなんだ。

「ごめんね。」
「謝らないでくださいって。」
「でも、君にそんな辛そうな顔、させてるのが僕なら謝らなきゃ。」
「…すみません。」
「お互い様だね。」
「そうっすね。」

小さなことでも、いつか大きなことに変わるって、信じてる、
だから、

「先輩、大丈夫ですか?」


「大丈夫。」 、 2回呟いた君。

多分、大丈夫じゃない。




返ってくる、答えが分かっていても、俺は自分を安心させるために、残酷な事を繰り返す。




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