02




高校生活は2年目に差し掛かり、俺は2年へと進級できた。
高校生活もそれなりに楽しくやっている。
校則違反だって怒られても、俺は男子用の制服に身を包む。
ヒトミが拗ねても、兄貴が小さくガッツポーズをしていたから俺は2人と離れた1階の部屋に住む。(2人は5階だ。)
マンションの管理人の仕事は手伝うし、バイトで生活費だって稼いでいる。
ヒトミはきっと知らない、俺が家族を嫌いなこと。


高校2年生になったって、何も状況は変わらない。
俺は毎日をなんとなく生きる。
別にそれが悪い事だなんて思わない。


俺の世界に色は無い、ただ白くにごった世界が広がっているだけ。
俺は全てを捨てたいんだ。



アイロンの利いたシャツに腕を通し、制服を身に付けていく。
只の習慣。(特別な事なんて何も無い。)
靴を履いて、鞄を掴んで家を出る。
桜の花びらが目の前を掠める。
空気を吸い込むと春の匂いがした。


キィと右隣の部屋の扉が空く音がする。
俺の右隣に住むのは学園の保険医、若月龍太郎先生。


この人はヒトミに少し、甘い。
兄貴と仲が良い。
それでも、俺とも仲が良い。
お隣だからかもしれない、それでも平等に見てもらえるのは嬉しい。
だから俺は多分、この人が好きだ。


「おはようございます、先生。」
「おぅ、エリカか。」



声をかけて、どちらからともなく一緒に歩き出す。
学園まではそう遠くない。



「お前相変わらず笑わねぇのな。」



先生が思い出したようにポツリとつぶやく。



「笑う必要が無いからですよ。俺が笑わなくてもヒトミが笑えば満足するんです。」



俺は表情をかえずに言う。
表情を作るのは苦手だ。
別に、無表情でも、声で気持ちは伝えられる。
それに、無表情なほうがクールだなんだと女の子たちははしゃぐから別にコレでいいんじゃないかと思っている。
俺が誰かに求められるのならば。



「はぁ・・・。」



先生は大きくため息をつく。
俺は今何かおかしなことを言ったのか?



「俺はお前の笑った顔が見たいんだけどな。」



先生は俺の頭をクシャッと撫でる。
俺は先生の顔を見る。
大して身長は変わらないけど、先生は大きい人だ。
全てを知っているんじゃないかと錯覚してしまう。



「ほら、笑ってみろよ。」



先生に頬を捕まれ横に引っ張られる。
ぐぃっと皮膚が伸びるのを感じ痛覚が刺激される。



「ひぇんひぇ、いひゃいれひゅ。」



やっぱり俺の表情は変わらない。




何度も言うように、俺は全てを捨てたかったんです。
俺は全てを捨てて、ヒトミに全てを押し付けたいんです。
楽しいこと、悲しいこと、全部。
俺は何も感じません。
何も感じようとも思いません。
俺の悲しい気持ちを構成していた全てから目をそむける事を決めたんです。



「少しづつ練習していこうな?」



そういって先生が優しく笑うので、



「はい。」



そんな事したくないなと思いながらも、小さく頷くのです。
本当なら優しい気持ちになれるはずなのに、心は温かくならない。




俺の心は腐ってしまったんだろうね。




かなしみを捨てたあと、
残るのもまたかなしみでした。






じゃあ、俺はどうすればよかったんだ?





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