傍観編 22






「俺は、21世紀に生きていたよ。」



お茶を飲みながら、叶さんはゆっくりと語り始めた。


例えば原付に乗って通っていた学校の事。
例えば自宅付近のショッピングセンターの事。
例えばアルバイト先の生意気な後輩の事。


もう四年も前の事だけどと複雑な表情で語るこの人はとても強い人なのだと思った。




私と違って。




私は弱い。とても弱い。
明日が怖い。朝が怖い。
夜、布団に入って目を閉じるたびにこれが全て夢で、朝になればいつもの日常が待っていればいいのに。
朝起きて、お母さんの作ってくれた朝ご飯を食べて学校に行って放課後は友達とカラオケに行ったりして、暖かいお風呂とふかふかの布団にくるまって、そんな日常に帰りたい。
私は強くないから、『今』が受け入れられない。
幸せで暖かな現実に戻りたい。



「…俺は強くて、君は弱いとでも思ってる?」



考えを言い当てられてぎくりとした。
叶さんは全然そんなこと無かったんだと笑った。



「俺はね、弱いよ。弱いからまだここで生きてる。」



一つ息を吐いてから、叶さんは過去の出来事を語りだす。
何も分からないまま夜中の森に放り出されて怯えて泣いた事。
忍術学園に入学してクラスで浮いてしまっていたこと。
そんな自分を変えてくれる人に出会えたこと。
そして、自分を守った為にその人を失ってしまったこと。




「虎先輩の優しさに俺は生かされてるんだよ。」




俺の命は虎先輩の物だからと、泣きそうな顔で笑う彼の姿を見て、酷いことを思ってしまったと後悔した。



はじめからずっと強い人間なんて何処にも居ないのね。








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