不運委員長様と一緒






朝起きたら、

体が重くて、
頭がくらくらして、
腹が痛くて、
寝巻きとシーツが血で染まっていた。

「ひゃぅ!?」

小さく、悲鳴をあげると、

「んー叶ー?・・・・どうかしたのか?」

のそのそと起きだした兵助に、何とか誤魔化さなければと思うけど、頭が上手く働かない。

「でっ・・・」
「・・・で?」
「出てってー!!!!」

寝ぼけたままの兵助を、部屋から制服と共に締め出した。
やばいやばいやばい。

「え、叶?」
「無理無理無理無理、絶対入ってこないで!!」

体調悪いから今日は休むって言っといて!!と、口調がおかしいことにも気づかずにひたすら叫び続けた。
部屋の前でしばらく声を掛けていた兵助も、かたくなな態度に折れて、お大事になと言う言葉の後に、足音が遠ざかっていく。
とりあえず一安心だと、引き戸に背を預けたままずるずると座り込む。
その間にも、じわりと下帯にしみこむ感覚が気持ち悪い。

退化して5年目。
自分が女だということも忘れかけていた頃だからうっかりしていた。
14歳で初めての初潮、と言うのは遅いのだろうけれど、色々あったからホルモンバランスが崩れていたんだろう。
久しぶりに感じる思い痛みに、蹲る。
うっかりしてた。

「ナプキンとか無いよねぇ・・。」

この時代はどうしてたんだっけ、と、貧血で上手く動かない頭で考える。
ズキズキと痛むお腹を抱えて、とりあえず布団に包まってしばらく蹲っていると、誰か近づいてくる気配がする。

「関口君、居るー?」

ノックと共に聞こえた声に、青ざめる。

不運委員長、もとい、保健委員長の善法寺伊作先輩。
不運とはいえ、保健委員の名前は伊達じゃない。

「い、居ません。」

とっさに出た答えの頭の悪さに、死にたくなる。
うぉぉぉぉい、あたし馬鹿じゃないのぉぉぉぉぉ!!!!

「こらこら、嘘つかないの。居るなら開けるよ。」
「だだだだだだだだだ駄目です!!!絶対駄目ーーーー!!!!!」

先輩が戸に手をかけるのが分かって、慌てて中から押さえつける。

「もー、女の子みたいな声上げてないで観念しなってば。」

外からがたがたと戸が壊れそうなほど揺さぶられるが、そんな事はどうでも良い。

「・・・お、女の子?」
「うん、知らなかったなぁ、関口君がオカマだったなんて。」
「断じて違いますっ!!!」

ケラケラ笑う先輩に声を荒げる。
無意識に、女言葉になってたのか、気をつけよう。

「ところで先輩、何しに来たんですか?」

いまだガタガタ揺れる戸を押さえながらそう口にすれば、

「んー、久々知君に関口君が体調悪いから様子を見てやって欲しいって頼まれたんだよね。」
「へ、兵助・・。」あんな乱暴に追い出したのに、気にしてくれるなんて!!とときめけばうわぁ、と嫌そうな声、この人相当失礼だな。

「オカマって言うかホモだったんだね。」
「ちっがぁぁぁぁぁぁう!!!!」

ほんと、なんなんだこの人は!!!
憤慨しながらも、この状況を打破する方法を必死に考える。

「えぇっと、ちょっと気分悪かっただけで、少し休めば大丈夫ですから、先輩はもう是非授業に向かっちゃってください。」

気分が悪い人とは思えない声で、言えば、不服そうな声。
この人何がしたいんだよ!!

「って言うかなんでそんなにこだわるんですか!!」

今まで対したかかわりも無かったのにいきなりなんだ!!
タイミングが悪すぎる!!!
空気読めよ!!

「保健委員として体調の悪い生徒をほって置けるわけが無いだろう!!」
「せ、先輩・・・。」

本日2度目の胸のトキメキを覚えれば、やっぱり嫌そうな声。
・・・マジでむかつくんですけど。

「まぁ、そう言うのは建前で、嫌がる関口君が面白いからつい。」
「てっめぇぇぇぇぇぇ!!!!」

ついってなんだついって!!
も、何この人、ホントわかんない!!!

「仕方ないなぁ、何か僕を納得させられる理由でも考えてみなよ。」

戸の外側でやれやれ仕方ないなぁと溜め息を吐かれるが、溜め息をつきたいのはこっちだ。

「えー、えぇっと・・・そうだなぁ・・・・実は顔に人面祖が出来て・・・」
「え、何それ、見たい。」
スパァン
「ちょっとぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

人面祖一つに何テンション上げたのか知らないけど、今までとは比べ物にならない力を戸に加えられ、抵抗空しく、戸は開け放たれる。

「・・・人面祖無いじゃないか、嘘吐き。」
「あえて言わせてください、アンタはアホだと。」

布団に包まったまま、戸が開いた反動で部屋の隅に転がっていった俺はよろよろと体勢を整える。

「はいはい、関口君がアホなのは知ってるから置いといて、気分はどう?薬いる?」
「・・・大丈夫です。」

前半に色々と物言いはあるけど、後半がまぁ、真面目だったので良いか、と思った俺が甘いのか・・・?


「顔色悪いよ、貧血かな・・・ん・・・、血の匂い・・?」

すんすんと鼻を動かす先輩にほんと、血の気が引く。
このひとはなんでこう、無駄に鋭いんだよ。馬鹿ぁぁぁぁ。
不運のくせに!!!

「血の匂いなんてしてませんよ!先輩鼻腐ってるんじゃ「え?何か言った?」・・・スミマセンデシタ。」


・・本気で殺されるかと、思った。
目で殺される。怖い。


「関口君怪我してるの?」
「してないですよ?」
「じゃあどうして血の匂いがするのかなぁ?」
「さ、さぁ・・・。」

ジリジリと詰め寄られ、終に壁に追い込まれる。

「脱げ。」
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」

布団をつかまれ、そのまま力任せに剥がれる。
布団をはがれた俺の姿は、白の寝間着姿で、下半身が赤く染まっているのが良く分かる。

「・・・あれ?」
「・・・先輩のエッチ。」

首をかしげる、先輩に大きく溜め息をついて、剥がれた布団を取り返して包まりなおす。

「えーっと、関口君ってもしかして・・・。」

あーあ、ばれたなぁ。
どうしよう、口止めできるかなぁ。
学校辞めたくないしなぁ・・・。

「痔?ポラ●ノール用意しようか?」
「アンタはアホかぁぁぁぁぁぁ!!!!」

懐から瓶を取り出して投げつける。
ちなみに空き瓶、効果なし!!

「分かってるって、もー、冗談なのに。流石にぢと月経の違いくらい分かります。もしかして初潮?」
「・・・そうですけど、驚かないですね。」
「保健委員だからねぇ。」

そっちじゃないんだけどな、と思いながら、持参した救急箱の中を漁る先輩の姿を観察する

「これ、当て布に使って。保健室に行けば、まだあるから後で取りにおいで。」

そう言って木綿をいくつか貰う。

「やり方分かる?」
「あー、何となくは。」
「そう。しっかり当てないと服が汚れちゃうから気を付けてね。」

テキパキと指示を出す先輩に、今度は俺が首をかしげる番。

「聞かないんですか。」
「何を?」
「・・・学園に居る理由とか。」
「聞いて欲しいの?」
「いや、あんまり。」

話せなくは無いけれど、非現実的な事を交えなければいけないから、話し難い。

「じゃあ、良いでしょ。誰にだって秘密の一つや二つあるじゃない。」

あっさりと言い切る、先輩に純粋に驚いた。
なんか、良いな。

「それに、僕、あんまり関口君に興味ないし。」
「・・・先輩全てが台無しです。」
「そう?」

ちょっと尊敬しかけたのに!!って言えば、笑いながら、迷惑だから止めてねって言われる。
なにこの先輩酷い!

「まぁ、偶然知っちゃったけど、別に誰かに言う気も無いし、ついでだから助けてあげるよ。」

仕方ないから何かあったら保健室においで、と先輩が優しく笑うので、その日あたしは始めて、不運委員長こと善法寺伊作先輩の懐の広さを知ったわけですよ。

「先輩先輩、ありがとうございます。」
「保健委員ですから。」

それが、あたしと先輩がお茶のみ友達になる、きっかけの話。








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