天女様の部屋はくの一長屋の中にあって忍たまが迂闊に近づけば大変な目に合うのはお約束である。
天女様に会いたければ、日中彼女の仕事中しかないのだけれど、その間は殆ど彼女を慕う男達が傍を離れないから、話しかける事さえ難しい。
だから、彼女ときちんと話すのなら夜、彼女が部屋に戻ってからしかない。
「かといってまだ死にたくないしなぁ。」
くの一教室の領地には危険が一杯なのは下級生の頃に嫌という程経験済みだ。
笑顔と丁寧な言葉に騙されて酷い目に合ったのは普通にトラウマだ。
思い出したくもない。
「ごきげんよう、叶さん。何かお手伝い致しましょうか?」
くの一長屋の前で無い頭を捻っている俺にかけられた声は今まさに思い出しそうになっていた、トラウマのそれで、
「ごごごごごきげんよう、ヤエさん。そしてさよなら!!」
「あら?何処へいかれますの?」
「うひぃぃぃぃ。」
半泣きになって逃げだそうとした俺の心境はそれなりに察して頂きたい。
「嫌ですわ、人を化け物のように。」
くの一教室の数少ない上級生である彼女はうふふと花が咲くように笑った後に、お茶でも飲んでいかれませんか?と近くの部屋に俺を引きずり込んだ。
確実にトラウマが増えていくわけで、くのいちちょうこわい。
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