傍観編 11






少女が涙を溢さない日は無くなっていました。



初めのうちは、最低限の暮らしを保障されていると言う恩から、見知らぬ世界で不安な気持ちに押しつぶされそうになっても必死で笑顔を作り、耐えて居ました。

優しい人は彼女に手を差し伸べてくれますから、慣れない生活でも頑張ればいつかなんとかなるのだと、前向きに考える事が出来ていました。



世界は優しさに満ちているのだと、信じていました。(そう信じるしかなかったのです。)
この世界でずっと生きる気は無いにしても、恩を仇で返すような事は出来ませんでした。(彼女だってまだ死にたくはないでしょうから。)





優しさの施しを受ければ、笑顔を見せて丁寧にお礼を言いました。

優しい人が困っていれば、笑顔を見せて手伝いを申し出ました。

優しい人が笑いかけてくれたのならば、精一杯の笑顔を見せて答えました。





繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し



永遠と続く無限ループに少しずつ少女の心は擦り減っていきました。





泣きたくても笑え。悔しくても笑え。困っても笑え。苦しくても笑え。痛くても笑え。嫌でも笑え。笑えなくても笑え。笑え。笑うんだ。どんな時でも笑え。






「もういや、もうだめ、もう笑いたくないの…。笑えないのよ…。」






優しい人達はいつも少女を守ってくれました。
女の子たちの嫌がらせからも、少女を嫌う人達からも。
少女を傷つけようとする全てから守ってくれていました。


例えそのせいで自分自身が傷つくことになったとしても彼らは決して少女を責めることなく無事でよかったと笑うのです。




少女が望むと望まざるにも関わらずいつでも一生懸命で、全てを投げ打ってまで少女に手を差し伸べる姿はただ純粋に狂っているようでした。

少女が好きだから守るのだと、狂気に満ちた笑顔を見せて少女に手を伸ばすのです。




その事に少女は怯え、涙を溢し、そして彼らは少女を泣かせた犯人を捜すと言う名目で少女以外の誰かを傷つけ、少女はまた涙を溢すのです。






あの子が泣いている少女を見かけたのは偶然でした。
後輩を探して普段あまり通る事の無い廊下を歩いていた時の事です。





あの子の知っている限り友人達や先輩に囲まれていつも笑って居た筈の少女の泣き顔と言うものは予想外の事でした。

少女を好いていると言う友人達や先輩達に大切にされて愛されて守られているのだとばかり思っていたのに、何故少女は今こんな人気のない場所で一人涙をこぼしているのか、あの子にはどうしても理解できませんでした。





「ねぇ、どうして泣くの?」




君もたくさんの優しさに守られているのではないの?





「いっそもうしにたい。」





追いつめられた彼女が溢した本当の言葉は、あの子の心にぐさりと深く突き刺さるものでした。







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