正体をあばけの段






※アニメネタバレ注意※




『叶せんぱぁい!!』
『んん?どうした、団蔵。』
『先輩は、鉢屋先輩の素顔をご存知ですか?』
『んん?その話ちょっと詳しく。』


そんな会話をしたのは、もう半刻ほどまえだったろうか。
三郎が、変装して人をからかって遊ぶ事はそう珍しくない事で、あぁ、今日も悪戯ばっかしてんなーで、終わることが殆どだ。
でも、今日は何かが違うようだった。


「私がその鉢屋三郎だからさ!!」


そう声高にドヤ顔で一年は組に宣言する三郎を見て、心底引いたのは仕方がないことだと思う。
一年生相手に大人気なさすぎんだろ…


「三郎、なにしてんの。」


雷蔵の顔から俺の顔に変えて、三郎は楽しそうに、土井先生に頼まれたんだ、と笑った。


「んん、変装を見破る授業ね。懐かしいなー。」


俺たちもやったよなーと言えば苦虫を噛み潰したかのような表情、後にあれは新入生イビリだという呟き。



俺たちが一年生の冬ぐらいの話だ。
一年と二年で合同演習を行うと連れていかれた裏山で発表された課題は、『鉢屋三郎の素顔をあばけ』。
開始の掛け声と共に、三郎決死の逃亡劇が始まった。
正直、悪いが、あの時の三郎の必死な表情を思い出して、今でも笑える自信がある。


「しっかり、逃げ切ったやつがよく言うよ。」


俺達も多少の手助けをしたとは言え、殆どは三郎が、上級生を蹴散らしていた。
一人残さず落とし穴に落としてやった、とボロボロになりながら言っていたのも本当に懐かしい話だ。


だけど、ろ組の連中に『三郎と間違えられる、雷蔵が可愛そうだ』と言われた途端、俺の顔に変えたことに対しての恨みは絶対に忘れない。
『不破じゃない関口だ、関口を追えぇぇぇぇぇぇ』なんて、叫びながら追いかけまわされた俺の心労を推し量ってくれよ。頼むから。
その間、ちゃっかり隠れて休憩してた事を知った時の苛立ちは今も忘れられないんだ…。





「あ、関口先輩が2人いるぞ!!」
「どっちかが鉢屋先輩だ!!」



11人分の声を足音が近づいてくる。
三郎、そのにやにや顔をやめろ。心底気持ち悪い。


「関口先輩!!」
「どうした、団蔵。」
「おいこら三郎、俺の可愛い後輩に話しかけるな。」
「うるさいぞ、三郎、俺を語るんじゃない。」


じょろじょろ集まったは組の良い子たちは、俺達の顔を見て混乱している。
それもそうだろう、関口叶の顔をした5年生がお互いを鉢屋三郎だと言い合っているのだからややこしい。
右だ、いや左だと、言い合うよい子達に、簡単な助け舟。


「団蔵、俺達をよく見比べてご覧。」
「見比べて…?あっ!!」
「左の関口先輩のほうが小柄だぞ!」
「そういえば、鉢屋先輩と不破先輩は体格も似てるけど、関口先輩はお二人よりも小柄だったような…」
「じゃあ、右の関口先輩が、鉢屋先輩だ!!」
「は組かかれぇぇぇぇぇ」
「「「「おーーーーーー!!」」」」


あっという間に、もみくちゃにされた『右の関口先輩』は、いつもの雷蔵の顔に戻ってから、



「ふっふっふ、ばれてしまっては仕方ない、私が鉢屋三郎だぁぁぁぁぁ!!」


と一つ叫んでから去って行った。


楽しそうではあるけど、あほだ、あほが居る…


でもまぁ、翻弄されてるは組もなんだかんだで、楽しそうだし、それはそれでいいのか。





「んん、でも、俺の顔であの悪そうな顔やめてくんない?」
「それは無理な相談だ!!」
「くたばれ、三郎。」






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