女の子の争い事は、とても陰湿でありました。
例えば、すれ違いざまに見られる事が増えました。
例えば、草履を置いていた場所が少しずらされていました。
例えば、着物の帯に気づかないような、でも効果的に切れ目が入れられていました。
すれ違いざまにひそひそと声を潜めた嘲笑とほんの少しの悪意の視線。
ゆるゆると真綿で首を絞めるような悪意の波に、暖かな場所でたくさんのものに守られてきた少女はとても耐えられませんでした。
しかし、こういう事をされていて辛いと訴えたところで、その程度のことで何を、と言われるのがオチです。
少女は分かってしまったのです、あんなに平凡でつまらなく思っていたあの日常が、どれほど暖かくでどれほど幸せであったのかと。
自分を天女だとはやし立てる人も、警戒心をむき出しにする人も変わらず、戦火に生きる人間でした。
毎日お腹一杯温かいご飯を食べることも、
暖かい布団に包まれて眠ることも、
両親が両手いっぱいの愛で自分を守ってくれるという事も、
必ず約束されたものではないのだと、知ってしまいました。
つまり、今自分のいる場所には本当の意味で自分の境遇を理解し、支えてくれる人はきっと何処にも居ないのでしょう。
「だって、分からないもの…。」
着ている物も使っている物も、なにもかもが違うこの世界で、少女はただの力無き子供であり、一人ぼっちであるのだと、すとんと理解してしまったのです。
「私は天女なんかじゃないのに、ただ家に帰りたいだけなのに、こんな所に来たかったわけじゃないのに、。」
少女は暖かな場所でたくさんの人に愛されて生きてきたものですから、本当の意味での孤独には、とても耐えられそうにはありませんでした。
「もう、いや…」
少女の心は軋んで、歪んでいきました。
彼女涙の本当の意味に気づくものは居ませんでした。
たった一人を除いては。
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