生まれ育った世界から弾かれ、見知らぬ世界へ迷い込み、混乱し、涙を流す。
少女はあの子と同じでした。
あの子も、この世界に来たばかりの時は泣いてばかりいました。
とてもとても可愛そうな子です。
ですが、叶はその事を天女様にも友人にも誰一人として伝える事をしませんでした。
「叶?どうかした?」
「んん、なんでもない。」
あの子は、知っていたのです。
少女が本当に此処で生きていくというのであれば、自分が手を貸して甘やかしてやるのは間違いであるのだと。
(たった一人で落ちてきたあの子が、誰かに守られて落ちてきた少女に対して、ほんの少しの嫉妬が無かったとは決して言えませんけれど。)
あの子は、知らなかったのです。
たった一人の少年が呟いた、「彼女は天女様に違いない」という言葉が全てを狂わせてしまっていたという事を、少女に興味を失くしてしまったあの子は知ろうともしなかったのです。
知ろうとしないと言う事はそれだけで罪深いものでありますが、可愛いあの子が面倒なことに巻き込まれているとあれば、黙っては居られませんね。
偶然立ち寄っただけですが、もう暫くこの近くに居座ってやりましょう。
あぁ、お前は何者だ、なんて言われてもお答えできる言葉は今のところありませんから、特に気にしないでください。
ただの、情報通の通行人、だとでも思っておいてください。
何事にも時期と言うものがありまして、まだ、正体を明かすには早すぎるんですよ。
あの子の為に私は何も致しませんので、【傍観者】とでもお呼びください。
見ている事しか、出来ませんから。
あの子を想う事すら、本当は許されないのですよ。
【傍観編 開始】
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