「あー…、嫌な夢見た…。」
自室の布団に寝かせられていた体を起して呟いた。
気分を悪くしたのは、放課後に入ってすぐだったのに、開いた襖から見える空を見る限り、今は丁度夕食時。
軽く4時間は寝ていた事になるのか。
凝り固まった肩を解して、布団から這い出す。
「あれから、もう4年も経ったのか…。」
年も取るはずだよなぁと、無意識のうちに口を突いて出ていた言葉を飲み下してから、自分の私物入れを漁る。
あの日、虎先輩から預かったまま返せていない巾着袋は今も大切に持っている。
小さく付いた血の痕が、あの出来事を夢だと思わせてくれない。
中途半端に大人になってしまった今ではもう貴方を思って泣く日は減ってしまったけれど、それでも貴方を思うと息苦しい。
ぎゅうと巾着袋を握りしめると、今までに無かった感覚がある。
驚いて巾着袋の中を確かめると、かさりと指に触れる質感。
中に入っていた、折りたたまれた綺麗な紙を恐る恐る手に取った。
『関口 凛』
表面には、自分以外にあの人しか知らない本当の名前が大きくかかれていて、上手く息が出来なくなった。
質の悪い悪戯かもしれない、そうは思いながらも頭の中で警鐘が鳴る。
この手紙を読めばきっと、もう、同じ日常は送れないだろう。
それでも、大切な友達や先輩や後輩より、遥かに勝る貴方の存在を匂わすものを捨てる事なんて、出来なかった。
諦める事なんて出来なかった。
あの人らしい几帳面な文字で、あの人らしい簡潔な手紙。
「命日にくらい顔を見せに帰ってこい、か…」
ただの嫌がらせじみた悪戯かもしれない。
沢山泣くことになるかもしれない…
でも、どうしても拭いきれない違和感を無かった事には出来なかった。
信じたい、信じさせて欲しい。
せめて、俺だけは最後まで、虎先輩が生きている事を…
信じていたい。
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