過去編38




押し入れの中は意外と快適だったりするわけで、考えごとをしていていつの間にか眠ってしまっている事なんて珍しくも無い事だった。

何処かへ落ちて行く感覚にハッと気づけば、暗闇の隅で蹲って泣いている女。

あたしはこいつを嫌と言うほど知っている。

「関口、凛…」

とりあえず笑って、人とのいざこざを回避する事にばかり必死になっていて、弱い自分を守る事しか考えなかった、19歳で大学生で、平成の時代でぬくぬくと甘やかされて育った、あたし。

世界で一番大嫌いな人間。

なんでこんなところに、とか。
夢にしても質が悪い、とか。
泣き声が鬱陶しい、とか。

一応自分の事でもあるはずなのに、どこか他人行儀で笑ってしまう。

「消えてよ。あんたなんか大嫌い。早く、死んじゃえばいいのに。」

自分に対してのはずなのに、暴言は止まらなくて次から次へと、彼女をけなす言葉ばかりが飛び出して行って、彼女の泣き声も止まらない。

まるで、カオスなこの状況。

笑ってしまう。
笑うしか出来ない。
馬鹿馬鹿しい。

『けんかはだめですよぅ!』

いっそ怒鳴りつけてやろうかと大きく息を吸い込んだ時、目の前に小さな女の子が出てきて驚いてむせてしまった。

この子も知っている。
まだ純粋な幼児だったころの、凛だ。


『はろーはろー、わたしはあなたです。』

驚いて言葉を失っている間に、その子はにっこりと笑ってそう言った。

『あの子もわたしです。』

泣いてる彼女を指さして、苛めないでくださいと、眉をひそめられた。
苛めてないし。心外だ。

『じゃあ、あなたはだぁれ?』

軽く首をかしげられた問いにはすぐに答えられた。

「関口叶。忍術学園1年い組の忍たま。」

『ちがうよ。ぜんぜんちがうよ。』

くすくすと小さな笑いが耳につく。

『あなたはわたし。 あの子もわたし。 だから、あなたはあのこ。』

頭が痛くなってきた。

『ねぇ、凛と叶、なにがちがうの?』

蹲って泣いてばかりの、凛。
閉じこもって泣いてばかりの叶。

なんだ、何も変わって無いじゃないか。

いつまでも足掻いていないで、覚悟を決めなければならないのか。

此処で生きて行くと言う、覚悟を。




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