過去編37



押し入れの中で丸くなりながら、所詮ただの綺麗事なのだと、自分で言っておきながら自嘲した。

実力も経験も何もかも足りていない癖に、実力も経験も十分すぎるほど積み重ねてきたあの人の代りに闘うなんて、冷静に考え直すまでも無く、無理だ。
あの人で叶わないのであれば、あたしなんかは相手の姿を見る事すら適わないだろう。
いくら死ねない体だと言っても、傷の大きさによっては等しく意識を失うのであるから壁にすらなれない。

「でも、怖いと思いませんか?」


上の者が下の者を助け、その下の者が更に下の者を助ける。

永遠に続く単純なようで複雑に絡み合った連鎖は、まるで簡単に人を縛り付けてしまう呪詛の類のようで、自由が無いみたいじゃ無いか。
ゆっくりと足を絡め取られて容易く何もかもを奪われてしまいそうで、そう思ってしまえば怖くなる。

あたしはあの人のように、いつまでも自由でありたい、のに。

「義務でも、なんでも無いのに深読みして嘆くなんて馬鹿な子ですね。」

押し入れの天井板が少しずれて、呆れた声が聞こえた。
私の言い方が悪かったようですね、小さく呟いてから、狼先輩はまた口を開いた。

「私達上級生は好きでやっているのですよ。自分が下級生だったころに助けられた恩を返さないといけないだなんて崇高な考えの者はいません。皆、下級生が可愛くて仕方ないんですよ。私達は一年のほとんどを此処で過ごすわけですから、まるで家族のようだと思ってしまっても仕方のない事だと思いませんか?危なっかしい子につい手を差し伸べる様はまるで兄弟のようじゃないですか。…少なくとも、虎はそうだったのでしょうね。」


狼先輩の言葉に張り詰めていた心が瞬間崩れ落ちた。

もう、何が正しくて、何が間違ってて、どうすればいいのか全然分かんないんです。

たすけてください。





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