「もう良いのか?」
保健室で簡単な手当を受けた後、部屋に戻ろうかと歩いているところに声をかけられた。
驚いて振り向けば、其処に居た人の目線に射抜かれる。
「もう、閉じこもらなくても良いのか?」
もう一度、確かめるように投げられた言葉は、あたしが持つその人のイメージとは程遠いもので、驚いて手に持っていた頭巾を落としてしまった。
強い風が吹いて、頭巾が飛ばされてしまっても、先輩は全く目線を反らさなかった。
「もう、だいじょうぶです。」
緊張からか、上手く言葉を紡げない。震える唇を一度噛みしめてから、先輩の方を見る。
「もう、大丈夫です。誰かの優しさに甘えるだけは止めるんです。現実逃避は止めるんです。」言い切れば、そうか、と優しい顔で笑った先輩が、いつの間に拾いに行ったのかあたしに頭巾を手渡してくれた。
「狐邑先輩に頼まれていたんだ。関口叶は強く見えてもとても脆い子供だから、見守って、何かあれば助けてやるように、と。」
俺の助けは必要ないよな?
確認するように紡がれた言葉に、居てもたっても居られなくなって、頭を下げた。
「ありがとうございます、潮江先輩!!!!」
どうしよう、気を抜いた途端にまた泣いてしまいそうだ。
「これからも、よろしくお願いします!」
安易に人に頼ろうとするなバカタレ!なんて良いながら、潮江先輩の顔は少しばかり嬉しそうで、優しい顔で微笑んでいて、
あたしは、幸せを噛みしめた。
虎先輩の優しさにあたしは守られて生きている。
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