過去編30






「俺はとても弱いよ、関口。」


仰向けに倒れた久々知は、腕を目の上にやって呟いた。


「認めるのも癪だけど、お前に勝てる気がしないんだ。
力なんて全然ない、非力なただの子供で、弧邑先輩と比べるのも申し訳ないくらい、弱いよ。」



腕を伸ばすと傷が悼むのか、久々知は小さな悲鳴をあげた。



「だから、俺を守れよ。お前が、ずっと。」



耳が可笑しくなったのかと驚いて、久々知のほうを見れば、勝ち誇ったような笑み。



「自分のせいで誰かが居なくなるのが嫌なら、守れるくらい強くなればいい。
そしたらお前は一人になら無いし、お前の前から突然消えることはない。
当然、俺もお前を守るよ。守られるだけなんて絶対やだね。それなら対等だ、なにか不満でも?」

「…不満、ばっかりだよ、馬鹿。」


ようやく引っ込んだ涙が、またぼたぼたと溢れ出して、目の前が見えなくなって、胸が苦しくなった。




「学園に帰るか。」
「…そうだな。」


起き上がろうとする久々知に手を貸して、ボロボロなお互いに笑い合って、ふらふらしながら学園へ戻った。


「へぇ…、喧嘩したんだ?」
「「すいませんでした!!」」

学園に戻ったあたし達を待っていたのは修羅の如く怒り狂う不破の姿だったのだけど、
一通り叱られた後の、おかえり、の言葉が嬉しくてこそばゆくて、また少しだけ、笑った。

突き刺さる視線や、悪意の暴言があたしに向けられて、また心が折れてしまいそうになったけれど、

不破が、

竹谷が、

久々知が、

あたしを精一杯庇ってくれるものだから、

強くなる努力を始めようと思いました。

一人ではなく、あたしを想ってくれる友人たちと共に。




虎先輩、貴方の居ない世界は、暗くて冷たくて、寂しい。
貴方の居ないこの場所で、どうやって生きたらいいのか分からなくて、貴方無しでは生きられない弱いあたしを自覚した。
死ねるのなら、死んでしまいたくて、何度も何度も自ら命を絶とうと頑張ったけど、それすら叶わなくて、塞がる傷口が嫌だった。
あたしが、人じゃないから、貴方を死なせてしまったんじゃないかと、深い後悔。
貴方の後を追いたくて、貴方に縋っていたくて、閉じこもった世界でも、何一つ解決しなくて、貴方への想いが募るばかり。

あたしも、貴方と共に逝きたいと思っていました。
貴方の居ない世界でなんて生きられないと、そう。


でも、先輩、聞いてください。

不破が言うんです、「叶、僕は君の笑った顔が好きだよ」って。

竹谷が言うんです、「お前を悪く言うやつはおれがぶっ飛ばしてやる!」って。

久々知が言うんです、「一緒に授業受けて、遊んで、普通の生活をしよう」って。

あたしは、その言葉が本当は、心の底から嬉しくて嬉しくて、仕方ないんです。


だから、先輩、ごめんなさい。

あたしは、とても、悪い子で嫌なやつだと思います。


だけど、許されるのなら、もう少し、この世界で生きてみたいと思ったんです…








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