過去編29




相手は、ボロボロだった。
避けて、喰らって、反撃して、反撃されて。
打ち身やあざが沢山出来ていた。

あたしにも打ち身やあざは出来ていたけど、量はあたしの方が遥かに少なかった。

けど、出血しないと、傷が治らないことに、少しだけ安心した。

出来れば、あたしは人でありたい。



半刻も遣り合えば、お互い力尽きて、並んで寝そべった。

久しぶりに動かして、火照った体を風が冷やしてくれて、とても気持ちが良かった。

熱くなった頭もようやく冷えて、感情的になりすぎたことを後悔する。


「俺、お前の事が嫌い。」


お互い、地面に寝そべったまま、男の子はそう言った。
そういえば、途中で名前を思い出したのだけど、彼は、あたしと同室である久々知兵助君だった。


「…ん、分かってる。」


あたしが嫌われるのなんて、当たり前の事だと思うから、疑問なんて抱かずに頷いた。

気に入らなかったのか久々知は酷く顔を歪めた。


「そう言うところが…」


ぼそぼそと小さな声で呟いた、久々知の言葉はあたしには聞こえなかったけど、何かを決意したように久々知は立ち上がった。


「お前は悪くない。」


はっきりときっぱりと言い切られた言葉に、息が詰まった。
そんなあたしをほったらかして、久々知は次々と言葉を続けていく。


「狐邑先輩が居なくなったのは、事故だ。
お前は運が良くて戻ってこられただけで、お前の帰りを喜ばれはしても、責められる事なんて有り得ない。
決して耳を塞ぐな、お前を知る近く人間の言葉に耳を傾けろ。
お前を知らない他人の言葉なんて聞くな、気にするな、無かった事にしろ。
お前は悪くない。悪いのは、意味も無くお前を責め続ける他人だ。」


久々知は、力強く、そう言ってから、



「そうやって、他人の言葉にばかり踊らされて、自分を見失うお前がとても嫌いだよ。」



悲しそうに、俯いた。








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