過去編28




毎日、毎晩、ずっと、ずっと。

泣き声、嗚咽、呻き声、声にならない悲鳴。

出来ればそう頻繁に聞きたくない声ばかりが、押入れの中から聞こえてくる。

ある一定の時間泣けば、ピタリと声がやんで、寝息とうなされ飛び起きる気配。

ずっとまともに寝れていないのか、顔色は悪く、今にも倒れてしまいそうで、

それでも、先輩方からの呼び出しには素直に応じて、馬鹿みたいに意味の無い事で責められ、ボロボロになって帰ってくる。

そして、また泣きつづける。

その繰り返し。

食事さえもまともに取らなくて、気になって毎日こっそり押入れの前に置いた俺の秘蔵の豆腐が減る事は無かった。
(一度だけ、無くなって居たが、皿の周りに所々飛び散っているのを見ると、関口が誤って踏みつけたからだと思われる。)



俺の知っている関口叶は、こんな弱い人間ではなかった筈だ。



俺の知る、関口叶は圧倒的な強さを見せた。

同じ学年で、彼に適う生徒は居ないだろう。
もしかしたら、同じ学年だけじゃなく、先輩にも勝ってしまうかもしれない。

彼は、それほど強かった。

級友は、彼を恐れ、それでも尊敬していた。

元々人と距離を置く人間ではあったけど、心を許した人間には甘く、本当は良く笑う人間だった。

俺は良く知らないが、狐邑先輩をとても慕っていた関口は、先輩の前では俺の知らない顔を見せていた。

同室とは言え、全くと言って良いほど関わってこなかった俺達だけど、この状況は気に入らない。




何故、関口を責める?
(アイツが、先輩をわざと死なせるなんて有り得ない。)


何故、関口を責められる?
(アイツがどんなに先輩を慕っていたか、先輩がどんなにアイツを可愛がっていたか、分かる奴には分かるだろう。)



狐邑先輩は、沢山の人に好かれていた。
関口叶は、沢山の人に好かれていなかった。
(けど、一部の人間にはとても大切にされている。)




その違い。

この学園は異常だ。

忍の学園だというのに、何故、たった一人の死に此処まで学園内が乱れるんだ。



「気に入らないよ、関口叶。お前を大切に思う人間は狐邑先輩だけじゃないだろ?お前を想う言葉を無かった事にするんじゃない。」



毎日、俺達の部屋の押入れの前で涙を流す不破や、暇を見つけてやってきては押入れに向かって語りかける竹谷。

二人とも、関口の事をとても心配しているのに、応えてやら無いその態度が気に入らない。


「うるさい!!お前に、お前に何が分かるんだよ!!知らないくせに!!何も、先輩の事も、何も、知らないくせにっ!!!」



取り乱し泣く関口の姿は、今まで俺が見てきた関口とは程遠くて、

何処か人間離れした動きを見せる、関口も、俺達と同じ、一人の人間なのだと、ようやく理解した。



「今、狐邑先輩は居ない。帰ってくると信じているなら、閉じ篭らずに、きちんと待っていてあげろよ。」



どうせ泣くのなら、

居ないと諦めた人の為より、

居ると信じた人の為に。






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