口に残った、すっぱさをようやく全て吐き出しきった頃に、男の子は、キッとあたしを睨みつけた。
「いつまでウジウジしてるつもりだ、いい加減にしろ!!」
そう叫んで、彼はあたしの頬を殴りつけた。
力いっぱい、思いっきり。
予想していなかった突然の攻撃に、ふらついて地面に倒れこんだ。
口の中が切れて、鉄の味が広がったが、そんな傷はすぐに塞がってしまった。
男の子は、何も言わずに、ただ無表情に、あたしを見下ろしているだけで、怖かった。
それと同時に、腹立たしくもあった。
何故、よく知らない、男の子に殴られる必要があったのか、と、悔しくもあった。
「やり返さないのか?やり返してこいよ、意気地なしの女々しい男め!!そんな度胸も無いのか!!」
軽く馬鹿にしたような口調に、あたしはすぐに立ち上がり、握り締めた右の拳を振り切った。
鈍い衝撃と、吹っ飛ぶ男の子と、肩で息をするあたし。
やりきってから、すぐに後悔。
あたしは虎先輩を死なせてしまったのだから、どんな責めでも甘んじて受けると決めていたのに、手を出してしまった。
男の子は口の中が切れたのか、地面につばを吐いてから、立ち上がって、あたしの方に走ってきた。
右から、ハイキック。
それを避ければ、上段回し蹴り。
あたしも避けながら反撃に入る。
懐から小瓶を取り出せば、バックステップで、風上に逃げられた。
仕方が無いので、追いかけて、ローキック、後に、地面に腕を付いて回る。
踵をぶつけてやろうと勢い良く回ったのに、バックステップで避けられて、すぐに反撃に入られる。
「っ、なんだよ!!俺がお前に何したんだよ!!」
何も言わずにただ、攻撃を続ける、彼についに苛々が爆発して、飛んできた拳を受け止めてから叫んだ。大きく口を開けたからか、口の端が少し切れた。
袖で拭っても、すぐに傷口は塞がってしまって、そんな自分にも苛々する。
「ただ、虎先輩の事を想って居たいだけなのに…」
我慢の限界で、ぼろぼろとこぼれる涙を袖で拭った。
あぁ、くそぅ、
先輩、
先輩、
虎先輩、
貴方に会いたいだけなのにっ、
邪魔しないでよ。
ただ会いたいだけなのに邪魔しないでよ…。
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