過去編25





じめじめとした所で、じめじめとした心で過ごすことは、あたしには余り苦痛じゃなかったのだけれど、そんな生活からあたしを引きずり出したのは、君。

いつものように、あたしは押入れの中で、虎先輩が迎えに来てくれるのを待っていた。
今にも、この襖を開けて先輩が帰ってきてくれるのだと、信じていたかった。
毎日来る不破や時々来る竹谷の声には、やっぱり耳を貸さなかった。

此処から出たら、虎先輩の死を認めてしまったら、あたしはもうこの両脚で立てないんじゃないかと思うほどには、怖かった。
事実は変えられないものだと分かっているからこそ、無駄な足掻きでも、続けていたかった。

虎先輩から預かった巾着袋を抱きしめて、耳を塞いで蹲って。
一日中、そうやって過ごしていた。

不破も竹谷も飽きずに凄いなぁと他人事のように思って、ただゆるゆると瞼を閉じる。
目を閉じれば、虎先輩の変わらない笑顔。
あぁ、なんだ、やっぱり貴方は生きているんじゃないか、と目を開けては絶望。

何日そうしていたか分からないけど、結構長い間、あたしは押入れから一歩も出なかった期間があった。
不破も竹谷もなんとかしてあたしを外に出そうと頑張っていたけれど、あたしにそんな気は無くて、虎先輩が迎えに来るまで絶対に出ないと決めていた。
不思議とお腹はすかなくて、ゆるゆるとした時間だけが過ぎていく。

何日目かの昼。
太陽が丁度真上から少しずれた頃合、勢い良く開いた襖に驚いているうちに、あたしは腕を掴まれ、押入れの中から、引きずり出される。


「ちょっと来い!!」


そう、叫ぶ、この黒髪の男の子は誰だったっけ?
考えてみるけど、思い出せない。
どうして怒られる?
分からない。
放って置いてくれれば良いのに。


久しぶりに見る太陽の光は、とても目に痛かった。





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