「お前、馬鹿じゃないのか。」
はっきりとした言葉がまっすぐとあたしの耳に届いた。
何度も何度も頭の中で繰り返しては、あぁそうだなぁと呟いた。
「毒で死ぬのって苦しいんだぞ。」
少年は言う。
毒を服用した物の無様な死に方を淡々と。
それでも、
「どんなに苦しくても、今以上の苦しみなんて無い。」
虎先輩の居ない世界で、一人。
虎先輩は此処に来てから、関口叶を構成する全て、だったから、あたしはこれからどうやって関口叶で居れば良いのか分からないよ。
「お前に何があって、そう言う事を言うようになったか、わからねーけど、そんな事絶対に二度と言うな!!」
ぼたぼたと、あたしよりも激しく少年は泣き声を上げる。
「どうして泣くの?」
今の流れで、少年が泣く意味が分からなくて、懐から出した綺麗な手拭いを差し出した。
「だって、俺達まだ、10歳じゃないか!!」
声を上げる少年に、心の中でだけ、本当は19歳だよと言う。
「それなのに、お前だけ苦しいとか、そんなの、嫌だ!!」
わぁわぁと、声を上げて、少年は、自分の学園生活を語る。
楽しかった事、悲しかった事、嬉しかった事、悔しかった事…
嫌な事も当然あるけれど、それでも、毎日とても楽しいのだと、必死に、真剣に。
「…無縁な事ばかりだ。」
組の事、委員会の事、友達の事、先生の事、課題の事。
あたしは、そんなの、知らない。
そう言えば、同室者の顔すら曖昧だ。
思った通りにそう告げれば、乱暴に自分の目元を袖で拭った少年は、笑った。
正直、まだ泣き止めていないので、微妙な笑顔だったのだが、
でも、
「じゃあ、俺が教えてやるよ!!お前が死にたいなんて言わなくなるまで一緒に居て、ずっと楽しませてやる!!」
覚悟しとけよと言って笑うその顔が、
似ても似つかない筈の笑顔が、
なんだか、虎先輩の笑顔に被ってしまって、
首を横に振ることが出来なかった。
「俺は、一年ろ組の竹谷八左ヱ門だ。お前は?」
一瞬、名乗るのを躊躇ったが、久しぶりに見る本物で、気持ちの良いほどの笑顔に押されて、おずおずと口を開いた。
「関口叶ね…よし、覚えた、よろしくな、叶!!!」
此処暫くの間、ずっと閉じこもっていたあたしが、どんなに、その笑顔に救われたのか、きっと彼は一生気付かないだろうし、あたしもその事を一生伝えることは無いだろう。
また明日な、なんて言って別れた背中を見えなくなるまで見送った。
あたし、生きても良いんですか?
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