過去編22





6年い組の弧邑虎之助。
名前と噂しか聞いた事無いけれど、とても素晴らしい先輩だと、思う。
1年生を守って失踪。
『それは年長者の行動として、正しく賞賛すべき事である。』と、学園長がおっしゃられた。
意味は良く分からなかったけれど、僕の友達を守ってくれたと言う事実だけは理解できて、会ったことの無い先輩に感謝の念が溢れた。
沢山の人に好かれていた、先輩は沢山の人が別れを惜しんでいた。


1年い組の関口叶。
その名前は、ほんの少しの間に有名になったものだと思う。
6年生に守られて生還した1年生。
それが、表向きの彼の評価。

けど、本来守られるべき立場の彼は、今、沢山の人に責められている。

それは、彼に関しての噂が原因。
彼の言う言葉は全て事実無根で有り、弧邑虎之助の失踪すら怪しいものに思えるのだと、いつもは優しい先輩が、とても怖い顔でおっしゃっていた。
その噂が本当のことなのか、誰も分からないのに、その噂を真実とし、誰もが、彼を責め立てる。

学園は皆、弧邑先輩を失ったことを嘆いている。見つからないことに、焦りを感じている。

怖い思いをしたから混乱しているのだろうと叶を庇護する、先輩も教員も、本当は余り叶を快く思っていないことは未熟な僕にも分かる。

大半の人が思っている。

関口叶よりも弧邑虎之助が帰って来るべきだったと、心の奥では、きっと。

可哀想な叶。

生きて帰って来れたのに、誰も彼の生還を喜ばない。
それどころか、怒鳴られ、責められ、罵倒され、先輩の死を悼む暇さえも許されない。

先輩の捜査は打ち切られ、それは失踪と銘打たれたものの、遺体が見つからないだけで、死亡したこととなり、近いうちに先輩の名前は名簿から消されてしまうんだろう。

更に、叶への責めは強まる。


「ねぇ、叶、また泣いているの?」


君は、僕の言葉にも耳を貸してくれないから、君の生還がとても嬉しいのに、それすら伝えられていないね。


「僕は、君の為に何かしてあげられないのかな?」


君が、僕の前に出てきてくれないのは、意味の無い責めを僕が受けることの無いように、と言う君の気遣いだと言うのは分かっているのだけど、でも、


「僕は、君に笑っていて欲しいよ。」


泣かないで、叶。
お願いだから、其処から顔を出して欲しいんだ。
一人で泣かないで、叶。
君の想いを聞かせてよ、僕に、共有させて欲しいんだ。
すぐに笑わないでいいよ、叶。
暫く、一緒に泣いて、それから君が立ち上がるために手でも足でもなんでも貸すよ。

だから、笑って、叶。


僕は君の部屋の前で君の笑顔を見られる日を、望むばかり。





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