全ての始まり。




まず、上手く笑えなくなった。
笑いたいのに、楽しいのに、顔が引きつって表情筋が上手く動かなくなった。

次は、喋れなくなった。
何かを言おうとするのに、その何かが、頭の中に浮かんでこなくて、声が出せなくなった。

家に居る間は上手く笑えるのに、上手く喋れるのに、外にいる間だけ、笑うのも喋るのもヘタクソになって、人との距離は開いていくばかりで、どんどん、心が重くなった。
笑おうとすればするほど、表情筋は固まるし、
喋ろうとすればするほど、口が上手く動いてくれなくなった。
つまらない奴だ、愛想の無い奴だと、陰口を叩かれていたのも知っている。学校で孤立していたのも知っている。
でも、上手く笑えないの、上手く喋れない、だから、人付き合いが上手く出来ない。
頑張ってるの、でも、駄目。
何もかも上手くいかなくて、どうしようもなくて、ただ、どんよりと、生きるしかなくて、
原因はわかっていても、今更どうしようもない過去の事で、いつまでも過去に縛られてばかりの自分が酷く醜く思えた。



「もう、いやだ、消えてしまいたい。この世界から。どこか違うところへ行きたい。違う環境だったら、何かが変わるかもしれない。」



グルグルと巡る感情は、ただ、あたしの心を締め付けて。
いつまでも過去から逃れられないのかと、自嘲した。


結局のところその日のあたしは、物凄く疲れてたんだと思う。
運良く浪人せずに、大学入学を果たし、四苦八苦した一年を乗り越えた、19歳の夏。
ようやく、環境に慣れ始めても、終わらない課題に苦手な人間関係で、心休まる暇も無くて、ずっと苛々してた。
心からそう思ったわけじゃなく、ただの戯言のつもりだった。


あたしは、苛々とひたすらどうでもいい事考えながら、ウトウトと夢も見ないほど深い、睡眠時間を開始した。


そして、次に目覚めたとき、絶望することになる。



あたり一面木に囲まれた森の中で、呆然と一人、立ち尽くして居た。
そのときはただ、混乱していて、
いつもより近い地面とか、
着たこと無い着物に身を包んでいることとか、
手にしっかりともった手紙の存在になんて気がつかなかった。



そのときから、ちょうど今日で4年目。
何故か、10歳くらいにまで体が退化していたり、
自分の生きていた時代とは違う時代に来ていたり、
手にしっかりと持っていた手紙のせいで、男として忍術を習うことになったり、
不可解なことが多すぎたが、さすがに4年も月日がたてば慣れた。

女子大生で19歳の関口凛は4年前に死んだ。
今ここに居るのは、忍術学園5年い組の関口叶だ。



何が起こったのかなんて、4年たった今でも分かっていないさ。




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