過去編19





ひゅーひゅーと上手く息も吸えないままふらふらと森を進む。
進んで進んで、ひたすら歩いて、忍術学園の近くの街道まで来た時に、足に力が入らなくなって、そのまま前のめりに倒れこんだ。
地面にしたたかに額を打ち付け、我慢していた嗚咽を漏らす。
此処に来るまで何度も何度も、泣いては堪えの繰り返し。
頬は乾いた涙でかさついて痛い。


「せんぱっ…とらせんぱい…」


ぐすぐすと鼻を啜りながらも立ち上がろうと足を動かすのだけど、全く力が入らなくてこれ以上自分の力で進めないことが解った。
あたしは無力だ。
貴方に守られるだけで、自分の身ですら守れなくて、貴方を傷付けてしまった。
貴方だけを、亡くしてしまった。
あの出血量で生きているなんて考えられないから、きっと先輩の身体はあの忍者が持って行ったんだろう。
せめて、貴方を学園に帰してあげたい。
貴方はとても学園を愛していたから、きっと帰りたがるに違いない。
悔しい。
力の無い自分が。
何も出来なかった自分が。
貴方に、何の恩も返せなかった自分が。
酷く、悔しい。






「…お前、関口か?」





諦めてたまるかと、腕の力で地面を這いつくばって進んでいる時に上から掛かった声。

どうした、しっかりしろ!と力強い声は、潮江先輩の声だった。
会計委員会の一つ上の先輩で、仲は良いわけでは無いけれど、今は藁にでも縋りたい。


「…すけ…さ……」
「なんだ?」


掠れた声で必死に言葉を紡ぐ。
あたしを抱える潮江先輩の周りには10の目。
突き刺さる視線に倒れそうになるが、歯を食いしばって耐える。


「…た、すけて。」


ようやく絞り出した声はギリギリ聞こえるか聞こえないかのものだったが、意味を汲み取ってくれた先輩はあたしを背中におぶさった。



「直ぐに学園に戻るぞ。」


潮江先輩の周りで動く5つの影。
違うんです、そうじゃないんです。あたしはどうなっても良いから、だから・・・


「とらせんぱいを、たすけてください。」





あの人が居なくなるなんて嫌だ。

どう言う事だと聞き返す先輩にもう一度、言葉を紡ぐ。






「おねがいします、とらせんぱいをたすけてください、おねがいします。」






あたしはどうだって良いから、虎先輩を学園に帰してあげてください。





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