過去編18





ズキズキと痛む頭を抱え、起き上がる。
暗い森の中で一人。
どうして此処に居るのかを考える。
考えて考えて、思い出した時に全身の血の気が引く。

慌てて辺りを見渡しても、虎先輩の姿は無くて、辺り一面の血の海だけが残っていた。


(なんか、気持ち悪い…。)


胸の辺りを押さえれば、服がパリパリに乾いていて、鼻を突く鉄の臭い。
心臓を一突きされた筈なのに、傷は痕跡一つ残さずに綺麗に塞がっていた。


(気持ち悪くて、吐きそう。)


ふらふらと立ち上がって、木を伝って街道を目指す。


(虎先輩、探さなきゃ…)


もしかしたら、全部夢だったんじゃないかと都合の良い事も思うのだけど、服にこびり付いた血液がどうしてもそう認めさせてくれなくて、苦しい。

ずっと握り締めていた先輩からの預かり物は奇跡的に綺麗なままで、それを胸に抱いて進む。

どうしてか、自分が死ぬ事すら出来ない身体だという事実が、すとんと簡単に理解出来てしまった。
試しに腕を軽く切ってみれば、ピリッとした痛みと血液が流れ出したが、直ぐに傷口は閉じてしまった。
この世界に来て直ぐ手にした手紙の文面を思い出す


『貴方の手で全てを終わらせる事は出来ません。
 貴方はただ運命に流されるだけ。』


どんなに辛くても、
どんなに虎先輩と共に死んでしまいたくても、
あたしは、生き続ける事しか出来ないのだと、あっさりと理解出来てしまう自分が居た。


「これが逃げる事しか考えていなかった凛への罰なんですね。」


どんなに辛く悲しくても、安易に逃げないで、立ち向かえと、そう言う事なのですね。



死ぬよりも辛い苦しみは、生きることであるのですね。






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