あげられなかった悲鳴。
届かなかった手。
笑えなかった、最期。
息が上手く出来なくて、胸が苦しいんです。
頭が上手く動かなくて、何も考えられないんです。
嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ!!!
こんなの、信じたくない。
あんなに強くて優しい貴方が、こんな薄暗い森の中で、冷たく動かなくなっているなんて、嘘ですよね。
嘘だって言ってください。
「とらせんぱい」
おかしいな、赤い水が沢山貴方の周りを流れていて、貴方は目を開いていなくて。
「わらってください、とらせんぱい。」
動かなくて、冷たくて、でも眠っているようで。
「おきてください、いっしょにがくえんにかえりましょうよ。」
あたしの服にも沢山の赤いの。
学園長の急な思いつきで虎先輩とお使いに出る事になった今日。
荷物を持って2人で道を歩いていたら、何処かの忍に襲われた。
あたしはまともな武器なんて持っていなくて、オロオロするだけで、虎先輩は素早く懐から武器を取り出して飛んできた手裏剣を落としていた。
『叶は先に学園に戻るんじゃ!わしの言う事聞けるやろ?』
虎先輩は、あたしの手を引いて走りながら、そう言った。
後ろからはゆっくりとあたしたちを襲った忍が追ってくる。
先輩を置いて逃げられないと首を振ると、虎先輩は困ったように笑って、懐から巾着をひとつ取り出した。
『これを、叶に預ける。わしが学園に戻ったら返してくれんか?大事なもんなんや。』
必ず帰るから先に帰るようにと、言外に匂わされて、先輩の手から巾着を受け取り渋々ながら頷いた。
『絶対に何があっても泣くんや無いぞ叶。虎先輩との約束や。』
そう言って、先輩とあたしは別れて、力の限り走り抜けた。
本当はずっと傍に居たかったのだけども、足手纏いになる事は間違いないので歯を食いしばって走った。
先輩が負けるはず無いと、そう信じて。
それなのに、子供の足でそう早く遠くまで走れる訳もなく、足がもつれて扱けた時、あたしの脇腹を飛んできた棒手裏剣が切り裂いた。
驚いて直ぐに体勢を整えて、手裏剣が飛んできた方に目を向けると、其処にはあたし達を襲った忍が虎先輩を抱えて居た。
『とら、せんぱい・・・?』
忍者に抱えられた虎先輩はピクリとも動かなくて、最悪の状況が頭を過ぎる。
目の前の忍者は、何も言わず、虎先輩をあたしの方に投げてから、直ぐ自分もあたしの傍まで来て、刀で心臓を一突きされた。
なんだか息苦しくて、咳をすれば、口から沢山の血が出た。
それでもなんとか虎先輩の傍に行きたくて少し離れた所に落とされた先輩の隣りにフラフラした足取りで向う。
いつのまにか、忍者は居なくなっていて、目的は何一つ分からなかった。
「せんぱい、おきてください。いっしょにかえりましょうよ。」
溢れる血潮にふらつく視界。
限界を感じて先輩の隣りに倒れこむ。
「どうしよう、うまくわらえないです、せんぱい。」
ぼろぼろと目から溢れる物は止まらなくて、先輩を悲しませてしまうだけだって分かっているのだけど、酷く苦しい。
「せんぱい、おねがいです、わらってください。」
先輩が笑ってくれないと、あたしだって笑えないんです。
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(混乱)
後に、
(号泣)
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