過去編15




「平気?」
「・・・あぁ。」


穴に落ちた俺に手を差し伸べる涼しげな顔の主が羨ましいと思った。


「行こう。」
「分かった。」




一年も半分過ぎれば、少しづつ実践練習が増えてきて、今日はクラスを2人1組に分けて鬼ごっこをしていた。
半人前でも、一応忍たまなのだから、ただの鬼ごっこで済む筈も無く、担任は至極楽しそうに「サバイバル鬼ごっこを始めるぞ」と笑った。


組み合わせはクジで決まったのだが、俺はクラスメイトで同室なのに、あまり話した事のない関口叶と一緒に行く事になった。
他のクラスメイト達は、俺が関口と一緒になったことを哀れんでいたが、本人はそれに気付かないのかどうなのか、そ知らぬ顔で準備運動をはじめてた。


「よろしく、関口。」
「あぁ。」


笑って手を差し出せば、ニコリともせずに手をとられて、なんだか凄くムッとした。
関口叶はよく分からない。
同じ組で同じ部屋でもう半年以上過ごすのに、コイツが喋っているところをあまり見ない。
教室でも長屋でも大抵本を読んでいるか、忍たまの友を開いているか、だ。
会計委員の先輩と話しているところを良く見かけるが、その時の関口は良く喋りよく笑い、態度の違いに苛々した。


特に会話があるはずも無く、俺達は2人、森の中を駆ける。
表情ひとつ変えない涼しい顔で、駆け抜ける関口の顔を見ながら、懐にある札を確かめた。
鬼ごっこのルールはひとつ。
自分達の札を守りつつ、他人の札を奪う事。
札を奪う為なら、何をしても良い。
罠を仕掛けようが、複数でかかろうが、
ただ、武器の使用だけは認められていない。
だから、線の細い関口は不利なんじゃないか、そのときはそう思った。


「来るぞ。」
「分かってる。」


スゥと息を吸って、拳を握り直せば、級友達が木の上から落ちてきた。
投げられた木の枝を手刀で打ち落とし、足で土を蹴り上げて、距離を取る。
次々に手を変え品を変え襲ってくる彼に、苦戦しながらも、関口のほうを見ると、級友の片割れが、関口のほうへ駆けて行き、関口に手をかけようとした瞬間、倒れた。
動きが速すぎて何も見えなかった。
だから、関口が何かをしたようには到底思えなくて、慌てて駆け寄る級友がもう一人、関口の傍に寄った途端に、倒れた。
あれだけ騒がしかった喧騒が今では嘘のように静まり返っている。


俺は何だか自分が恥ずかしいと思った。
関口は強い。
此処に居る誰よりも。
圧倒的な強さを見せられて、ただ呆然と、俺とは違うのだと、また関口が遠くなっていった。


関口はいつだって、俺と同じ場所に居たのに。

関口を理解しようともせずに安易に突き放したのは、俺自身。






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