過去編10





「全員来たんけ?」


薄い色の髪をなびかせて、その人は、俺達をぐるりを見渡した。


「んん、ちゃんとおるね。優秀やの。
んー、今年度初めての委員会やき、まずは自己紹介から始めよか。
わしが会計委員長をやっとる6年い組の狐邑虎之助じゃ。」


虎先輩って呼んでもええよ、とその人はふわりと笑った。

それが、あたしと虎先輩との出会い。



それから暫く後の事、長屋の廊下を歩いていると、反対側から、綺麗な頭が歩いてきた。


「お、叶やないか!」
「あ・・はい、こんにちは。」


その人はニコニコと笑って、あたしに手を振り、あたしはペコリと頭を下げる。
目上の人に対する正しい挨拶をしたはずなのに、先輩はあたしの顔をじぃと見つめる。


「んー?」
「あの・・何か?」


見定めるような視線に落ち着かなくて、問い掛ければ、先輩は眉を潜めて、


「叶は笑ってくれんのぅ。」


と、悲しそうに呟いた。
わしのことが嫌いなんか?と続ける先輩に首を振る。
違う違う、嫌いじゃない。
あたしに人を嫌いになる資格なんてあるはず無い。


「ごめ、なさい・・。」


先輩の顔が見れなくなって、顔を背けて反対に走り出す。
だって、笑えない、喋れない。
関口凛とさよならしたって、あたしは何も変われていない。
怖い、怖い、怖い。
見ないで、話し掛けないで、何も出来ないから、嫌だ、嫌だ、嫌だ。


「ッ、叶!?」


走るあたしを先輩は追いかけて、体格の差や経験の差から、あたしはあっさりと捕まって、今は先輩に抱えられながら、長屋を見渡せる木の上に居る。


「すまんの、叶。泣かせるつもりは無かったんじゃ。」


先輩はシュンとして、あたしは目を真っ赤にして鼻を啜った。
時々、あたしの頭の上を行き来する先輩の手はとても優しかった。


「わしは駄目やの。相手の事を考えんですぐに思うたことを言うてしまう。」


すまんなぁ、と言ってあたしの体を抱きしめる先輩はなんだか子供みたいで、何だかおかしい。
小さく笑えば、先輩は綾斗はええ子やのーとあたしの頭をぐりぐりと撫でる。


「・・・それで良いんじゃよ叶。」


楽しいか、叶。と先輩は優しく笑うので、なんだか心が苦しくなる。


「・・・なんだか、上手く笑えなくて、上手く喋れなくて、どうすれば良いのか分からなくて、怖いんです。」


ぽつりぽつりと紡ぐ言葉に、先輩は相槌を打ってくれて、それが嬉しい。


「無理せんでええんじゃ。笑いたい時に笑えばええし、泣きたい時には泣けばええ、嫌な時は嫌な顔すればええんじゃ。
自然体で良いんじゃよ叶。無理をする必要なんて無いんじゃ。
何も無いのが一番怖い。感情を外に出せへんかったらすぐに心が腐ってしまう。」


少しづつわしと練習せんか?と先輩は笑って、あたしは、すぐに頷いた。







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