過去編9






「関口…叶、です。」

忍術学園に入学して早くも1週間が過ぎた。
慣れない環境、慣れない生活でなんどもボロが出そうになったが、それでもなんとか頑張っている。
水色の井桁模様の制服で身を包み、肩より下に伸ばした髪は高い位置で一まとめにする。
文机に纏めてあった忍たまの友や筆記用具を片手に持って、長屋の部屋を出る。
同室の奴はもうとっくに教室へと向かっていた。

たかが一週間、されど一週間。
長いようで短い、短いようで長い。
元々、人見知りの激しい性質だし、ある意味での異文化コミュニケーションで、クラスや同室の奴と上手く関われないまま、1週間。深く関われば、その分男装がばれる可能性も上がるわけだし、別にそれで良いかと、その時は思っていた。
一度諦めてしまえば、人間いくらでも能天気に生きれるものだと。

「おはよう、関口。」
「・・・おはよう、久々知君。」

きっとこのまま何も無く、ただ普通に生きていくのだと、信じていた。
そんなこと、絶対有り得ないのに。





「関口・・・叶、です。よろしく。」

変な奴だな、それが俺の彼に対する第一印象。

期待に充ちて、忍術学園の門をくぐって早一ヶ月。
始めの1週間は授業はせずに、クラスメイトとの交流をメインに設定されていて、色々な事を経験するうちに、クラスには十分溶け込めたと思う。

「おーい、兵助ー外でドッチボールしようぜ!!」
「おぅ、今行くー。」

昼休み、教室をばたばた走って出て行こうとすると、ふと教室の隅に目が止まる。
真っ黒な髪を高い位置で束ね、黙々と本を読みつづける姿。
一応、俺の同室である、関口叶、だ。
俺には彼が何を考えているのか良く分からない。
話し掛けても、ニコリともせずに淡々と返すだけだし、時々、理由は分からないけど顔を歪める時がある。
だから、苦手だ。
嫌われてるんじゃないかって思う。
初めこそ、根気良く話し掛けていたけど、2週間を過ぎた辺りか、用がない限り話し掛けることをしなくなった。
彼も変に話し掛けられるよりかは一人でいたいのだろうと思い込んで。
それでも、そのときはただ、気まぐれ。

「関口も一緒に行かない?」
「・・・いや、いい。」

どうせ断られるだろうって分かっていたから、俺は一度も関口のほうを見なかった。
だから、知らなかった、気付かなかった。
俺が声をかけた瞬間、関口が酷く顔を歪めていた、事を。


「同情なんて必要ないんだよ、久々知兵助君。」


そんなのいらない。
そんなのなんのやくにもたたないじゃないか。







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