過去編8





目的地が決まったとは言え、行き方が分かるはずも無く、あたしは未だに暗い森の中をグルグルと彷徨っている。
過ぎ行く時間はあたしの頭の中を整理するには十分すぎて、始めの頃よりかは幾分か落ち着いた。
ザクザクと土を踏み締める音と鳥の羽ばたく音だけが響く森の中、涙はとうに枯れ果てた。

今更どうしようもない、笑え。
泣いてばかりでどうする、生きたいのなら笑え、精一杯笑え。

袖口でぐいと目元を拭いて、吐こうとした弱音は全部飲み込んだ。

関口凛にさよならしよう。

ぐっと唇を噛み締めて、手を握りしめる。
関口凛として培ってきた19年間、は短くて長い。
母親の胎内から産まれ落ち、父親に抱かれ、兄や姉に可愛がられ、友達に出会い、笑って泣いて怒って傷ついて、また笑った。
それは、確かに楽しい事ばかりじゃなく、もしかしたら辛い事の方が多かったかもしれないけれど、それでも、あたしの生きた全て。
関口凛とさよならすると言う事は即ち、今までの自分が無くなってしまうと言う事。

「それで良い・・・」

ギリリと唇を噛み締めれば、苦い鉄の味。

「関口凛で駄目だった事、やり直せるのなら、それだけで少しは救われる。」

人に迷惑をかけて、誰かを傷付けて、傷ついてどうしようもなくて蹲ってばかりの自分が変われるのなら、それで良い。
今更何処にも帰れないのなら、諦めるしかないんでしょ?


「さようなら、凛。」


さようなら、今までのあたし。
始めまして、新しい俺。








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