あたしが死んで、俺が生まれた日。
あたしは全てを失って、俺は全てを得る事を拒んだ。
認めたくなくて、信じたくなくて、どうして良いのかなんて分からなくて、ただ、呆然と。
小さい頃から、人と関わるたびに傷ついて、泣いていたあたしに、お前は愚直なのだと、姉が言う。
中学生の時、あの子があたしにだけ本当の事を言ってくれなかったのも、
高校生の時、あの子があたしとの約束を破って終には裏切ってしまったのも、
全てお前が悪いのだと、姉は言う。
高校生の時に相談を持ちかけた担任は、お前が大人になれば良いのだと簡単に言ってのける。
時々、過去を思い出して、無性に泣きたくなる日がある。
中学生の時、もっとあの子と話をすればよかったの?
高校生の時、あたしは約束を破られても、裏切られても怒っちゃいけなかったの?
今更、だなんて分かってる。
でも、無性に悲しい。
どうしようも出来ない感情がグルグルと渦巻いた。
18歳の春。
あたしは、一つの結論を出した。
人と関わって、裏切られて、傷つくくらいなら、初めから誰とも付き合わなければいい、と。
あたしと同じ高校から大学へ、行く子は居ないから、好都合。
癖毛の髪に縮毛強制を当てて、慣れない化粧の練習をして、今までのあたしとは違うあたしを作り上げた。
入学してすぐに、壁を作り上げて、誰にも関わらないようにした。
最初こそ、楽しそうに談笑してる女の子達が羨ましいと思ったが、慣れれば、何も思わなくなった。
大丈夫あたしは一人で生きていけるのだと、自惚れていた。
同じ学科の女の子達に話し掛けられるたびに、心で、謝って距離を取る。
男の子達から陰口を言われる事もあった。
滅多に喋らないのが気持ち悪いのだと、嘲笑われた。
それでも、そんなのは全然苦にならなかった、のだと思い込んでいた。
一日一日、増えていく心の痛みに、あたしは只、気付かない振り。
ある日、突然上手く笑えなくなった。
笑いたいのに、楽しいのに、顔が引きつって表情筋が上手く動かなくなった。
次は、突然喋れなくなった。
何かを言おうとするのに、その何かが、頭の中に浮かんでこなくて、声が出せなくなった。
話し掛けられるたびに、笑おうと、喋ろうとするのに、
笑おうとすればするほど、表情筋は固まるし、
喋ろうとすればするほど、口が上手く動いてくれなくなった。
嗚呼、そうか、楽な方へ逃げようとした、あたしへの罰なのか、と小さく嘲笑う。
人と付き合わなくったって、傷つく事には変わらないのに、あたしは只、眼をそむけて逃げただけ。
涙が、止まらなくなった。
こんな自分を変えたいのに、どうすれば良いのか分からなくて、逃げる事しか考えられない自分が酷く醜く見えた。
あたしを傷付けたあの子達の事も酷く憎いと思った。
死んじゃえば良いのに。
苦しんで苦しんで、あたしの記憶と共に居なくなってしまえば良いのに。
違う、そんなんじゃ何も変わらない、の。
「もう、いやだ、消えてしまいたい。この世界から。どこか違うところへ行きたい。違う環境だったら、何かが変わるかもしれない。」
グルグルと巡る感情は、ただ、あたしの心を締め付けて。
いつまでも過去から逃れられないのかと、自嘲した。
気が付けば、あたしは、暗い森の中で一人佇んでいた。
自分の覚えている限りでは、自室で携帯を握り締めながらウトウトしていたはずなのに、急に変わった景色に驚きを隠せない。
どこか遠くでなく野犬の声や、頭上を飛び回るカラスの声は、あたしの恐怖心を煽るにはもってこいで、かたかたと振るえる。
「どうして・・・。」
呟く声に返って来る言葉なんてなくて、ただ、恐怖に脅えながらも、森を進むしかなかった。
これは罰なのだと、誰かが嘲笑った気がした。
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