「先輩達って仲良いですよね。」
用があるからと、文次先輩が席を外した会計室、たまには真面目にと、算盤を弾いていた俺に、三木が唐突に口を開く。
「ん?俺か?」
「はい。久々知先輩とか鉢屋先輩とかと凄く仲良いじゃないですか。」
じぃと、此方を興味津々に伺う8つの目に苦笑する。
なんだ、三木だけかと思ったら、皆、興味深々なんだ。
可愛いな、こんちくしょう。
「えー、そうか?普通だろ。ほら、三木も平と仲良いじゃないか。」
言えば、「あれは違います!!」と勢い良く返って来る。
仲悪くは見えないんだけど、って言えば、納得いかなそうな目。
まぁ、本人の問題だからいいんだけど。
「昔から、そんなに仲良かったんですか?」
左門の声に少し、考える。
「えー、どうだったかなぁ。」
考えた後に誤魔化そうと口を開く。
「コイツら昔は凄く仲悪かったぞ。」
「ちょ、文次先輩何言い出すんですか死ね!!」
「・・・お前が何言い出すんだよ。」
帰ってくるなり爆弾発言をする文次先輩を睨みつければニヤリと笑われ物凄く悔しい。
「しかも、関口は根暗だったな。」
「ぎゃー、そこまで言うんですか!!最低だ!!」
「いつもの仕返しだバカタレ。」
ギャーギャー騒ぐ、俺達を尻目に暫く固まっていた後輩達は勢い良く目をしばたく。
「「「「えぇーーーーっ!?」」」」
仲良く揃う声には小さく笑う。
息ピッタリだなぁ。
「信じられないです・・・。」
有り得ないと、呟かれた言葉に、昔を思い出す。
「文次先輩が要らない事言うから・・・。」
「事実じゃねーか。」
ブツブツ呟きながら算盤を弾く。
これ以上、何も言う気は無いよ。
文次先輩も流石にソレを分かっているのか、算盤を持ち出して、俺の隣りに並ぶ。
「過去がどうであれ、お前はお前なんだろ?」
「・・・そうですけどー。後輩には良い格好してたいじゃないですかー。」
何も知らないくせに、俺の領域にずけずけと入り込んでくるアイツが、大嫌いだったんだ、ほんと。
『近寄るな、構うな、もう放っておいてくれ。仲良しごっこはうんざりだ。』
あの頃は、いろいろな事が一度に起こり過ぎた。
知らせようとしなきゃ、知ってもらえるはず無いのに、勝手に一人で傷ついてた。
「それで、どうして、今はそんなに仲が良く・・?」
「んん、それは秘密。」
「えぇー!?教えて下さいよ!!」
「だーめ。ほら、さっさと手動かしてー。ノルマ達成出来ないと先輩に怒られるぞー。」
あれは、俺達の、大切な、想い出なんだ。
4年と数ヶ月前、あたしが死んで、俺が産まれた日。
たった一人で、呆然と立ち尽くすしか出来なかった、力の無い子供だった頃。
彼らに、とても、救われた。
どれだけ、感謝してもしきれない、よ。
「先輩、これ以上は内緒ですよ?」
「あぁ、分かってる。」
俺も良く知らないしな、と先輩は小さく呟いた。
過去編 開始
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