涙雨






「っ、ぁ、ふぁ、っ、」

ぼたぼたととめどなく流れ落ちる雫を腕に受けて長屋の床に突っ伏したまま泣く。
時々、あるんだ。
どうしようもなく、悲しくて、
どうしようもなく、苦しくて、
どうしようもなく、悔しくて、
涙が止まらない日が。

大抵、少し泣けば収まるのに、今日は違った。
此処にきて、4年と少し。
親や友達に会えないのなんて慣れた筈なのに、時々思い出したように会いたくなるから仕方ない。
此処に来るまで培った19年を無かった事になんて絶対に無理だ。

それでも人間の記憶と言うのは曖昧なもので、ずっと覚えているのは不可能で、

泣いてるあたしを慰めてくれたあの子はの顔はどんな感じだった?
毎日当たり前のように食べてたお母さんのご飯はどんな味だった?

少しづつ薄くなっていく記憶が怖くて泣いた。
このまま全て忘れていって、関口凛は跡形もなく消えてしまうんじゃないかって、怖かった。


「っく、うぁ、ぅぅ、」


19年と半年、
4年と少し。
あたしが生きた期間は短くて、小さい。
仕方ないなんて簡単に受け止められるほど、あたしは、大人にはなれなかったんだ。



「・・叶?」


スゥと、襖が横にずれ、現れたのは、同室のクラスメイトの顔。
心配そうな顔に、無理矢理笑顔を張り付かせて応える。


「大丈夫、ちょっと、嫌な事があっただけ。」


あたしちゃんと笑えてる?
上手く笑えてる?
あぁ、駄目だ、全然笑えてない。

だって、君の顔が怖い。
大丈夫、無理なんてしてないよ。

心配しないで。
そんな顔させたくないのに、可笑しいなぁ・・・
笑ってよ、ねぇ。



「叶は、ずるい。」
「・・どーして?」


予想だにもしていなかった言葉に純粋に首をかしげる。


「叶は、俺達の前で泣く事はあっても、絶対に弱音を吐かないじゃないか。」


襖を閉めて、彼はあたしの隣りに腰を下ろす。


「叶が泣く度に、俺も悲しくなるんだ。
俺は叶に何も出来ないのかって思えば、凄く、悔しい。」


彼はあたしの頭を撫で、髪を透く。


「勝手な事言ってるってのは、分かってる。
けど、俺は叶に頼って欲しいんだ。」


叶が俺を助けてくれた分俺も叶を助けてあげたい、と、優しく、愛しむように動く手が、なんだか悲しくて、彼の服の裾を掴んだ。


「ちょっとだけ、弱音吐いて良い?」


そう言えば、彼は黙って頷いて、あたしはギュゥと彼の腰に抱きついた。


「心配してくれてありがと、三郎。」


大丈夫、君たちが居てくれる限り、あたしは笑ってられるから。
だから、今だけ、君の胸で泣いて良いかな?





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