気分転換にちょっとお高めのお昼食べてリフレッシュしよう。
今朝、仕事前の準備をしようとPCの電源をつけると先日まで8割方作っていたファイルが何故かパソコンから消えていた。
慌てて探したがどこにもなく、提出期限もあるため探すことは諦め一から作り直している。おおよその事は頭に入ってはいるものの、あれだけ苦労して作って物が無くなった絶望感は大きい。
モチベーションを維持するためにも少し贅沢をしようと、あの高いことで有名な星カフェでお昼をとることにした。
「うわー席あいてねー…あのさ、席あいてないから相席してもいい?」
確かに今は昼頃で混んでるのか開いてる席が一つもない。別に相席を嫌がる理由は一つもないため承諾した。
目の前の男の子は所謂原宿系ファッションというのかティアラが頭についてた。見た限り安物でなく、そこに彼なりのこだわりを感じた。アクセサリーにはお金を惜しまないタイプなんっだろうな。
「それうまい?」
『甘くておいしいですよ』
「じゃあオレもそれにしよ」
レジに向かった彼は堂々と人を抜かしまくりレジで注文しカウンターでは「早くしろよ、あと三秒な」とか言って定員を困らせていたのでもしかしたら、危ない人と相席になったのかも…。
「ふーん。まあまあじゃん。わかってると思うけど、オレがお前に相席頼みに来たのわざとだから。さっそく本題に入りたんだけど」
『えっ…』
「先輩の女っていうから期待してたのに、そんなこともに見ぬけねーとか…それでも一緒に居るとかやっぱり本気なんじゃんあのカス鮫」
『話が見えないんですけど?』
「オレはベル。お前の彼氏の同僚」
『…それで?』
監禁状態だからスクアーロは外に出してないし、勿論仕事にもいかせてない。いい加減仕事先から連絡が来るかなとは踏んでいたけどまさか直接来るなんて。
向こうはスクアーロへ連絡が取れなくて、生存確認をしてるのかもしれないし…。いや、そしたらこんなところで偶然を装って話しかけないか。つまり、私がスクアーロ行方不明に関係しているとわかったうえで来てる?面倒だな、だとしたらなんて言い逃れしよう。
「こっちにも仕事があるわけ。お前が先輩縛ってるせいで、オレの所にまで先輩の分の仕事が回ってきてんの。流石に今日は仕事してるけどペースが落ちてるのはあきらかなんだよね」
『えっ…スクアーロ仕事してるんですか?』
「さっきここ来る途中見かけたから今か仕事行くんじゃね?」
そんな馬鹿な。だって私が枷をつけて監禁してたし、鍵にも細工をかけたしそんなことできるはず…
急いで家に置いているカメラの映像をアプリで確認するとそこにはもぬけの殻の部屋。スクアーロはいなかった。
嘘嘘嘘嘘。なんで、どうして。なんでどっかいったの!?嫌だ。何で。
目の前の事実に理解できず、頭は真っ白。心臓の鼓動だけがやけにはっきり聞こえて手は表面がひやっとして徐々に汗ばんでくる。
まさか出られるとは思ってなかったからスクアーロ本人にも監視カメラはつけてないし、家の他の場所にもカメラはつけてない。
『どうしようどうしようどうしようどうしよう。スクアーロがいないっ…』
仕事なんかしてる場合じゃない。探さないと…でも急な午後休の申請なんて受け付けてくれるはずがない。親が危篤で…って手も使えなくはないけど後々確認が来たらバレるし、かといって、今仕事を抜け出せばあの上司から怒られるだけじゃすまない。
『なんでいなくなっちゃうの…スクアーロ』
「…オレが言いたいのはこれ以上先輩に縛られて縛るなよって事。」
『意味わかんないですよ…』
「十分ヒントはやったから後はお前が何とかしろよ。バイビー」
彼の意味不明な言動も気になるところだが、今はそんなことよりもとっとと仕事を終わらせてスクアーロを探しに行くことが先決だ。こんなところでのんきにお昼を食べている場合ではない。おいしいはずの飲み物も今はどうでもよくてとりあえず胃に流し込んだ。冷たい飲み物をいっぺんに飲んだせいで胃が冷たいのが感覚としてよく伝わる。
走って自分のデスクまで向かうと鬼の形相で泣きながら仕事をした。あまりのその異様な光景にお昼から帰ってきた同僚たちが何事かと聞いてくれたが、何も答えられなくて「彼氏とちょっとね…」といって誤魔化した。嘘は言ってないし、大概の人はそういうとそれ以上追及してこない。
死に物狂いで資料を完成させた結果2時頃には例のファイルは完成していてそれを上司に渡すと「今日はもう帰れ」と言われた。「そんなんじゃ使い物にならん。明日には気持ちの整理をつけておけ、と」スクアーロが見つかるか否かでそれは大きく変わると思うが、今はそれよりもこの気遣いをあり難く受け取った。
走って家まで向かう。何人もの人にぶつかり、靴擦れをおこしながらも懸命に走った。今私の頭にはスクアーロしか見えていない。
『スクアーロ!』
「う”ぉい…なんだぁ?どうしたぁ?」
家に着いたら靴を脱ぐのも忘れてスクアーロの部屋まで直行すると、そこには何事もなかったかのようにスクアーロが居た。
『はぁっ…スクアーロどこ行って…めちゃくちゃ心配して…』
「何言ってんだぁ?見りゃ―わかんだろーがぁ。オレは繋がれててこの部屋を出ることもできないんだぜ?」
『だって…カメラに…写ってなくて…心配で…』
「そんなものつけなくても出ようがねえだろぉ…カメラの死角にたまたま居た時を見たんじゃねえのか?」
『…あ。そっか…死角か…』
スクアーロにばれないようにカメラを置くにはおける場所が限られていて、そのせいでいくつか死角があるのはわかってた。でもわざわざこの部屋で死角に移動する必要もないだろうと思って気にしてなかったんだけど…
『スクアーロなんですみっこに居たの?こんなに広いのに真ん中に居ればいいじゃん。あんなとこいても何にもないよ』
「ほら、狭い所だと落ち着くだろ…」
なるほど、私も真ん中より隅とか端好きだしそれはわかるな…。なんだ、じゃあホントに私の勘違いか。安堵したら急に今までの疲労が体に現れてもう一歩も動きたくなくなった。
はぁ…でも本当にただの勘違いでよかった。きっとあのベル?って人が見たのも見間違いだろう。
『スクアーロこっちきてぎゅーってして』
「これでいいかぁ?」
『うん。スクアーロ、愛してるよ…どこもいかないでね…』
「…本当にどうしたぁ?変だぞぉ」
何でもいい。今はただ、スクアーロに包まれるこの感覚にひたろう。
離れない(貴方は私のものだから)