05
今度はちゃんと鍵を閉めてバスルームへ向かい、べたつく体を綺麗にし衣服を整え自室へ戻った。私には一つ確認しなければんらないことがある。あの人が素直に私に目的を教えてくれるとは思えないけれど、それでも聞かなければならない。
『…どうせ遠くから見ているのでしょう。一つ伺いたいことがあるのです。姿を見せてはは頂けませんか?カールハインツ様』
「……やれやれ。君は本当に聡い子になった。いつから気が付いて居たんだい。」
『見ていたことが分かったわけではありませんよ。でも貴方が自分の駒をないがしろにすることはありえない。放任はしていたとしても、ね』
人間の親は自分の子供が離れると心配で陰ながら様子を伺うという事があるらしいが、この男はそんな可愛い理由で私を見張っていたわけではない。カールハインツとって私は生きた駒、道具にすぎない。そして、道具や駒が勝手に何かしないように見張るのは当然だろう?これが恐らくカールハインツの思考だ。
今更父親らしさなど求めるつもりはない。私たち親子にとってはこのくらいの距離感が丁度良いのだ。
「フフッなるほど。それで私に聞きたいことはとは何だい?長居すると彼らに見つかってしまうから手短に頼むよ」
『私はカルラの元に来ることは貴方の“計画”の一部ですか?』
カールハインツのある計画のために自分達は人間からからヴァンパイアになったと前にルキが言っていた。その計画と何か関係があるのだろうか。
「…さぁ、どうだろう」
『…止めはしないのですね』
「運命に逆らう気はないというだけの事だよ」
『なるほど…わかりました。お答えいただきありがとうございます』
「もういいのかい」
『ええ』
これ以上聞いたところで貴方からまともな返答が出るとは思えませんからね…。答えてくれただけあり難く思っておくとしましょう。
カールハインツの返事はおそらく今回私たちが始祖に連れ去られたことは彼にとっては任意の出来事だという事。つまり、これからどうするかは私たちの意思で決められる。逃げるもよし、始祖の子を産む器としているもよし。
あの男の考えてることなどさっぱりわからない。てっきり今回の出来事はカルラの元へ行き何らかの役目を果たすことだと思っていたが、そうではないらしい。ならば私のやることは決まっている。
『一刻も早くここを抜け出す。せめて妹だけでも』
当初の目的は変わらないが、あの男が関与されてないというだけで私達に選択の自由が与えられたことは何より心を軽くするものだった。
だが、やはりカルラから逃げ切るのは難しい。それはここ数日この屋敷の中に居てわかった。屋敷の中にはいたるところにトラップの魔方陣が敷かれており、中にはかなり高度な魔方陣もあった。それらを扱えるという事は、力は私より上とみていい。そんな男から逃げ切るなど不可能に等しい。ならばとれる行動はただ一つ。堂々とこの屋敷から出させるほかない。それにはカルラ達から絶対的な信用を得る、又は私に服従させるしかないだろう。どちらにしても望み薄だが何とかするしかない。なるべく早くしなければ、恐らく兄弟たちがここを突き止めて襲撃に来る。彼らの強さではカルラはおろかシンにだって勝つことはできないだろう。そんな最悪の事態は何としてでも避けなければ。
カルラから絶対的信頼…。服従。それらを満たせることができる存在。
『…恋人か』
つい先刻「間違っても私の妃になれると思わないことだ」なんて言われたが、よもやその通りの思考になるとは。だが、妹を帰すためにはその方法しかない。
ヴァンパイアは人に比べれば繁殖能力が低い。そうほいほい子は産まれないし、子が生まれるまで待てるほど時間の余裕はない。
『絶対貴方を惚れさせます』
決意
(妹を助ける為なら私は何でもする)
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