時巡り | ナノ



よく笑うようになったなって…

大好きな笑顔で、あなたはそう抱きしめてくれたんだ






『ごめん、お待たせ』
「おー。慌てなくていいから、転ぶなよ」
『そこまで運動神経鈍くありません』
「ははッ、さいですか」
『うん。さいなんです』

二階建てのアパートの突き当り
待っていてくれてるだろう彼の姿を探して塀から顔を出す
すぐ目の前の道路に車を止めて見上げてくる捲簾がヒラヒラと手を振ってくれた
心もち、少し速めに降りていく階段
一人暮らしの私の家まで彼は毎朝迎えに来てくれていた

…捲簾が免許持ってるって…なんだかすごく新鮮だ

最後の階段を降り切れば目の前には「ん。」って車に凭れたまま両手を広げて待っている捲簾がいて

人通りがないことをこっそり見渡せば喉を震わせながら笑われた

だって仕方ないでしょ、向けられるその想いはいつだってくすぐったいんだ

「おはよーさん、六花」
『おはよう、捲簾』
「昨日はちゃんと眠れたか?」
『ん。ちゃんと寝たよ』
「朝飯は?」
『…それは、まだ、』
「んじゃ大学行く前に先にコンビニだな」
『ヨーグルトがいいなぁ』
「たまにはちゃんとしたモン食えっての。それ以上痩せてどーすんだよ」
『食べてない訳じゃない』
「それにしたって食が細すぎんだろ。なんだよ、一日一食とか」
『低燃費?』
「身体壊しそうだからダーメだ」
『今世の捲簾も過保護だ』
「六花に関しちゃもう諦めろ」
『ん。』
「…なーに笑ってんのよ、そこの別嬪さん」
『ふふ…なんでもないですよ、色男さん』

広げられた腕のなか、大好きな香りに飛び込んだ

まるで閉じ込めるかのように、覆い隠すように

捲簾はいつも毎朝わたしを抱きしめてくれる

抱きしめて、一番におはようをくれるんだ

それは…あの頃となにも変わらない大切な習慣で

交わされた言葉は…あの日、あの場所で、同じような会話をしたよね

覚えていてくれたんだ

「今日も梅雨空だな」
『うん。それでもやっぱり空が好きでしょう』
「まあな。だからこそ天文学部を選んだっつうのもある」
『私も捲簾が空好きだったから…なんとなく選んでた。星も好きだし』
「愛されてんなー俺」
『コロコロ変わる気まぐれ美人』
「因みに目の前にいんのがちょー別嬪」
『…恥ずかしいから急にそんなこと言わないで』
「なら許可取りゃ問題ねえな?」
『え…』
「くくく…冗談だよ」

喉の奥で笑う、その、様子が

記憶の中のそれとまったく同じだったから
愛しさと切なさが一緒に溢れ出る
再びこうして、彼と巡り会えたこと
傍に居て、共に生きていけるということ

すっごく、すごく、奇跡

擦り寄るようにこの身を寄せれば回された腕が強さを増す。ああ…こんな事でも愛おしさを感じてしまうよ

『…』
「ん?どーした、六花」
『…幸せで胸が張り裂けそう』
「!…ははッ、安心しろ。そーなったらちゃんと縫い直してやっから」
『キレイにね?』
「おう。それもとびっきりの愛情詰め込みながらな」
『もっと大きく出来ないかなぁ…』

いつもいつも、彼からの想いで飽和状態になる私の心
そっと見上げれば、瞳を細めて微笑う彼
ああ…この、笑い方
優しくて…眩しくて、私が大好きなカオの一つ
屈むように額を合わせてくれる捲簾に、私も背伸びする
重なる視線と互いの瞳に映る自分の姿
捲簾、捲簾
あの頃には絶対にできなかったけど…今なら、少しずつ
あなたに甘えることが出来るような気がするよ
笑ってろって伝えてくれた、こんな私を愛してくれたあなただから

「どーしたよ。今日は甘えたな日か?」
『ふふ…どうだろうね』
「俺としちゃいつでも大歓迎だけどな」
『甘えてばかりじゃ堕落しちゃうよ』
「むしろソッチのが好都合」
『もう。相変わらず、捲簾は私に甘すぎると思うの』
「惚れた女甘やかすのも男の役目なんで」
『だめだ…自分で気を付けなくちゃ』
「堕落大歓迎よ?」
『迷惑しかかけそうもないから自重します』
「そりゃ残念」

前髪をどけて、押し当てられたぬくもり
外じゃ恥ずかしいからダメって言ったのに、もう
クツクツと喉の奥で笑う捲簾を睨んでみても絶対に朱くなってる目元じゃ効果なんてないことも知っている

「っし。行くか」
『ん。今日もよろしくお願いします』
「ちゃんとシートベルト締めとけよ?」
『大丈夫、カチャッて言った』
「よし。お前を乗せて危ねえ運転なんざしねえけど、もしもってこともあるしな」
『そうだね。巻き込まれる可能性もゼロじゃないし』
「そーいうこった。」
『道混んでないといいね』
「8時か…微妙なところだな」
『そういえば、確か今月にあの大通りにショッピングモールが出来るって言ってた』
「あー、じゃあその辺りは早めに出るか」
『わたし歩いて行ってもいいよ?わざわざ私の家まで来るの大変でしょ』
「却下」
『即答された…』
「もう梅雨に入ってんだし雨降りん中歩くのも面倒だろ。それに、だ」
『それに?』
「俺が一番に六花に逢いてえワケよ。大学じゃ二人っきりにはなれねえからな」
『…』
「お。耳真っ赤」
『っ、ちゃんと前を見て運転して』
「へーい」
『余所見運転事故のもと』
「かわいーカオしてるお前が悪い」
『…理不尽だ』

聞こえ始めたエンジン音と、徐々に動き出す景色
流れる音楽はとある女性が歌う恋の歌
あ…これ、私が前に好きだっていった奴だ
覚えててくれたのかな
ちらりと運転する横顔を盗み見る

…割と本気で反則だと思う

どうして捲簾はなにをやっても様になるんだろう

悔しくなるようなかっこよさに思わず寄ってしまった眉間の皺

大きな十字路で赤になった信号。ゆっくりと止まれば捲簾が笑う

「どーしたよ。俺に見とれてたか?」
『…自分で言っちゃうあたり捲簾らしいよね』
「そりゃあ確信持ちなんで」
『…』
「そう拗ねんなよ、美人が台無しだぞ」
『意外だなって』
「俺が免許持ってんのがか?」
『うん。バイクとか…そっちのイメージだったから。天蓬も持ってるよね』
「まあな、学生のうちに取っといた方が後々楽だって聞くし。それにあった方がこれから先いろいろと便利だろ?お前も一人暮らしだしな」
『ん…私も免許取ろうかなぁ』
「危ねえから却下」
『…そこまで鈍くないよ』
「そーじゃなくて、巻き込まれるかもしんねぇ可能性の方を言ってんだよ」
『それは捲簾も同じ』
「男はいーんだよ男は。それに、俺が運転してる時は六花も傍に居るだろ」
『毎朝お迎え来てくれるから』
「けど六花が免許取ったら、俺の居ない時に運転する事だって増えちまうだろーが」
『…』
「俺が傍に居ない時にんな危険行為は禁止な。事故に巻き込まれる可能性だってゼロじゃねえって言ったろ?」

だからダメだ、って

青に変わる信号と、再び動き出す景色

真っ直ぐに前を見つめるその横顔がとても真剣だったから

これは…結構本気で拒んでる

そんな横顔を見つめては何度か瞬いて、同じように視線を前に向けた

ああ困った

彼の過保護さが悪化している。それでもちっとも嫌な気持ちにならないあたり…

私も相当彼の色に染められているみたい

『…捲簾がそういうなら、やめとく』
「そーしてそーして。じゃなきゃヒヤヒヤしっぱなしで俺の寿命が縮みそう」
『それは絶対にダメ』
「そー思うんなら乗るのは俺が運転する車だけにしてくれるとありがたい」
『ん。天蓬はあり?』
「徹夜明けじゃねえ限りな」
『まだ気絶生活なの…』
「こないだは風呂で溺れかけたらしーぞ」
『…いつか溺死するんじゃない、天蓬』
「そーなったら俺らが死体第一発見者だな」
『笑えないよね』

変わらない日常に思わず笑ってしまう
ああ…本当に。繋がっているんだねって分かるから
もう二度と天蓬の散らかり放題な部屋の片付けなんて出来ないって…そう思ったあの日の夜

そして、当たり前のように互いの家を行き来していた捲簾と天蓬
聞けば二人共一人暮らしらしい。生活感なんてまるっきり皆無な天蓬に捲簾はまたも手を焼いているようで
…私が言うのもあれだけど、天蓬だってその生活リズムは乱れに乱れてると思うの
それを捲簾に伝えればあいつは男だからどーでもいいんだよって返されたけど

「お。コンビニ着くぞ」
『捲簾なに飲む?わたし買ってくるよ』
「んじゃコーヒー…!、いや、やっぱ俺も行くわ」
『?』
「六花、スマホ見てみ」
『え?……あ、ユキと天蓬からだ』
「あいつら俺らがコンビニ寄ること見越してやがったな」
『行動パターン読まれてるね』
「ったく…パシリに使いやがって」
『ふふ…いいじゃん、買って行ってあげようよ』

捲簾のズボンのポケットで鳴った電子音。取り出して確認してみればどうやらグループラインだったようで
苦笑混じりに言われた言葉に私も自分のそれを確認してみればあの二人からのメッセージが届いていた


――――――――――――――――――――
おはようございます。           
どうせ捲簾のことですから、        
六花を連れてコンビニに行くんでしょう?
僕とユキの分もお願いします         既読3 
―――――――――――――――――――― 8:12
―――――――――――――――――――――
おっはよー二人とも!            
私たちもう大学に居るんだけどね。      
なんか小腹空いたって話になったから      
どうせコンビニに居るならなにか買ってきてー  
あ、六花はちゃんと朝ご飯買ってくること!
捲簾そのへんよろしく!            既読3
――――――――――――――――――――― 8:12

だんだんと似てきているような気がする…この二人。思わず笑ってしまった
画面見てため息なんてつく捲簾だけど、仕方ねぇなってやっぱり笑っていて
顔を見合わせてから彼らの要望に応えるべく車を降りた
見上げた空はどんよりとした鉛色。だけどこれもあなたが見せてくれる表情の一つなんだって分かるから、彼が愛した空が好きなんだ

『あれ…』
「どーした?」
『でも、今日って確か…二人は2限からじゃなかったっけ』
「あー…アレだろ。どうせ天蓬がまた早朝から図書館占拠してたんだろ」
『…ユキもついてったってこと』
「たぶんな」
『…。』
「…。」
『…とりあえず、返信しなくちゃ』
「おー、しといてしといて。じゃなきゃあいつらうるせぇからな」

きっと私たちは同じこと考えたと思うんだよね。顔を見合わせて浮かんだその応えに瞬いてから私は再び画面と向き合った
…大学に入ってから、もう
2つの数字が変わっている。世間では梅雨入りが発表されていて、ここ最近では折り畳み傘が必需品だ。まぁそれでも私の場合は捲簾が毎日のように迎えに来てくれるからあまり使う機会がないんだけど

ぽちぽちと彼らに向けて文字を綴る
駐車場に止めた車の隣、そして捲簾もまた運転席から私の傍まで寄ってきていて

    ―――――――――――――――――――――
    おはよう。                 
既読3  今ちょうどコンビニに居るんだけど、何がいい?
 8:15 ―――――――――――――――――――――

―――――――――
あれ?捲簾運転中?  既読3
――――――――― 8:15

    ―――――――――――――――――
    ううん。隣に居るよ         
既読3  ユキはおにぎりとお茶でいいんだよね?
 8:15 ―――――――――――――――――

―――――――――――――――――
ならよし。
うん、私はそれでいいや
ちょっと待って、天蓬に聞いてみる!  既読3
――――――――――――――――― 8:15

    ―――――――――――――――
既読3  うん。二人でまた図書館にいるの?
 8:16 ―――――――――――――――

―――――――――――――――――
そーだよー、だって天蓬ほっとくと
図書館の本全部ひっくり返す勢いで
読み漁るんだよ!?
しかも出したら出しっぱなしだし!
ズボラにも程があるでしょうがこれ!  既読3
――――――――――――――――― 8:16

    ――――――――――――――
    天蓬のそれはステータスだからね
既読3  私たちも結構それで苦労した  
 8:16 ――――――――――――――

――――――――――――――――
失礼ですねぇ二人とも。
盗み出さないだけ良いじゃないですか  既読3
―――――――――――――――― 8:16

    ―――――――――――――――――
    いっぺんその根性叩き直してぇよな  
既読3  俺らがなんべん言ったって直りゃしねぇ
 8:16 ―――――――――――――――――

――――――――――――――――
そんなステータス別に求めてない!
て言うか盗むとか犯罪だからね!?

あ、捲簾発見            既読3
―――――――――――――――― 8:16

    ―――――――――――――――
既読3  人をポケモンみたく言うなっての 
 8:16 ―――――――――――――――

――――――――――――――
捲簾がポケモンだったらさ、
絶対に属性はドラゴンだよね!
なんか空飛んでそうだもん    既読3
―――――――――――――― 8:16

    ―――――――――――――――――
既読3  お前の中で俺ってどんなイメージなのよ
 8:16 ―――――――――――――――――

―――――――――――――――
え。六花の背後霊?
しかもなんかすんごい強力なヤツ  既読3
――――――――――――――― 8:17

    ――――――――――――――
    化けモンか俺は        
既読3  つーかポケモン関係ねぇだろソレ
 8:17 ――――――――――――――
    ―――――――――――――
    天蓬。おにぎり明太子でいい?
既読3  あとはお茶買って行くから。 
 8:17 ―――――――――――――

――――――――――
はい。さすが六花    
よく分かってますねぇ  既読3
―――――――――― 8:17
――――――――――――――――――
ちょっと六花、捲簾放置してていいの?
そのうち拗ねるんじゃないの、この子   既読3
―――――――――――――――――― 8:17

    ―――――――――――――――――――
既読3  別に。ちゃんと抱きしめてっから拗ねねえよ
 8:17 ―――――――――――――――――――
    ―――――――――――
既読3  誰かこの人どうにかして
 8:17 ―――――――――――

―――――――――――――――――――――――
ハイハイ御馳走様でした。
あまりからかってると愛想つかされますよ、あなた  既読3
――――――――――――――――――――――― 8:17
――――――――――――――――――――
頑張れ六花。応援しとく。
私は今からこの膨大な本の山と戦ってくるわ  既読3
―――――――――――――――――――― 8:17

    ――――――――――――――
    潰されないように気を付けてね。
既読3  着いたら届けるよ       
 8:17 ――――――――――――――

――――――――
りょうかーい!
ありがとねー!!  既読3
―――――――― 8:18
―――――――――――――――――――――
あ、そうだ。
どうせだったら僕の煙草も買ってきてください  既読3
――――――――――――――――――――― 8:18

    ――――――――――――――――
既読3  お前ね、ここぞとばかりにパシんなよ
 8:18 ――――――――――――――――

――――――――――――――――
いいじゃないですか。
どうせあなた達も買うんでしょう?  既読3
―――――――――――――――― 8:18

    ――――
既読3  天蓬。 
 8:17 ――――

――――――――――――――――――――
ちょっと待った!!
"あなた達"ってなに!?
未成年が喫煙すんなとか色々いいたいけど!
六花も煙草吸うのっ!?  
初知りなんですけどわたし!!        既読3
―――――――――――――――――――― 8:18
――
あ。  既読3
―― 8:17

    ―――――――――――――
既読3  あ、じゃねーよこのバカ   
 8:18 ―――――――――――――


――――――――――――
ちょっと六花後でお話ある 既読3
―――――――――――― 8:18

    ――――
既読3  …はい。
 8:18 ――――

―――――――――――――――――――
いやあ、すみません、六花。ついうっかり 既読3
――――――――――――――――――― 8:18

    ―――――――――――――――
既読3  お前大学着いたらとりあえず殴る 
 8:18 ―――――――――――――――


画面を閉じて一つだけ零したため息。確かにユキに伝えたことは無かったんだ。
真面目な彼女の傍に未成年者の喫煙の影がバレればあの子にだって迷惑がかかる
それだけは絶対に避けたい出来事だったのに…
けど、まぁ。共に過ごして二月が経つ
バレるのも時間の問題だ
捲簾や天蓬が吸っているのは知っているけれど、その時は私は吸わなかったから。なるべく家で吸うようにしていたし、殆どユキと行動を共にすることの方が多かった学生時代

気を張っていたのも確かだ。
視線を上げれば苦笑いの捲簾
ばれちゃったよ、捲簾

「大丈夫か?」
『ん。確実に怒られるだろうけどね』
「下界じゃ法律だのなんだって細けえもんな」
『ふふ…その言い方だと、まるで私たちが…』
「…」
『……懐かしい、ね』
「ああ、そうだな」
『今になってもやっぱり、やめられそうもないからなぁ…私も』
「だよな。俺らもそうだった」
『それにわたし…結構変なことしてた』
「変なこと?」
『ん。…ずっと、お守り代わりだったから』
「!」

私たちを繋ぐ、もう一つのカタチ。

それは…大切な意味を持ったそれぞれの銘柄にある

瞳を閉じて、揺らぐ首筋の髪

バックの中に忍ばせた小さな一つの巾着。その中に在るものを取り出せば…驚いたように瞳が開かれた

「…ハイライト」
『捲簾の、煙草。見つけて欲しくないって思っても、どうしても願ってしまっていたから』
「…」
『身勝手だよね…矛盾した想いしか抱けないなんて……、捲簾?』
「…、」
『どうしたの…?』
「抱きしめていいか」
『…、え?』
「いまめっちゃくちゃお前のこと抱きしめてぇんだけど」

上げた視線の先
ものすごく真剣な表情の捲簾に瞬くこと数秒間
何がどうしてその答えに行き着いたのかは分からないけれど…それでも
真っ直ぐに見下ろされる色はまるで何かに耐えているようにも見えたから

あの日の夜と…同じように

『…どうぞ』
「よしきた。」
『……、捲簾…?』
「頼むからあんましカワイーことすんなって。耐えろって方が拷問だわ」
『拷問…苦しいの?』
「六花が好きすぎて苦しーの。どうしてくれんだ」
『ふふ…それは、さっきの私と同じだね』
「こんな感じだったのか」
『そんな感じだったんです』
「こりゃ…張り裂けそうだな」
『そうなったら私が縫い直してあげる』
「おう。そん時は頼むわ」

愛おしいねって、切ないねって
強く強く抱きしめる捲簾の腕の中、顔を埋めて想うよ
再びこうしてあなたの傍に居られること、傍にいて…愛し合えるということ
ほんとうに…キセキ
見上げて笑えば、困ったように笑ってくれるから
そんな事でさえも愛しさが溢れ出るよ

ねえ…伝わっていますか

「出来ればこのまま俺ん家に連れて帰りてえ」
『ユキと天蓬が待ってるからダメです』
「んじゃ、今夜お前は俺ん家な」
『…、…レポートが…』
「提出期限は来週だし、もう殆ど終えてたろ」
『…』
「はい決定」
『捲簾が横暴だ』
「カワイーことする六花が悪ィ」

現在、8:30ちょっと前
そろそろ買い物を済ませて向かわないと遅刻になりそうな時間
満足気なその表情はちょっと納得いかない。…明日は2限からだけど
起きられる、かな
そんなことを思いながらどこか上機嫌な彼を見上げた
…考えるのやめよう
向けられるその想いも…求めてくれるその意味も
私にはどちらも必要なものだから

「うし。とりあえず行くか」
『そうだね。遅刻したら大変だし』
「腹減ったって騒がれてもうるせぇしな」
『そうだ捲簾、』
「ん?」
『私ね、最近になって思うことがあるんだ』
「あー…さっきのな。ありゃ確実だろ、ぜってぇ」
『やっぱりそう思う?』
「おう。つか、気づいてねぇのなんか当の本人ぐらいなんじゃね?」
『だよね…うん。そうかも』
「逃がす気なんざサラサラねえぞあいつは」
『私もそう思うけど…』
「そーいう話はしねえのか?二人の時とか」
『うん。あまりしない、かな』
「聞いてみたらどうだ?っつっても、結果は変わんねぇ気もすっけどな」

いらっしゃいませと言う声に迎えられて踏み入れた店内
目的のものをカゴに放り込む捲簾の背中を見つめて、大切な友人たちを思い浮かべる
出来ることならどっちも傷ついて欲しくなんてないから
無自覚な心と確実な自覚を持つ心
部活や習い事に明け暮れていた私たちは、そういった手の話題にはとことん関心を抱かずにきてしまったから

でも、もしも

向けられるそれに応えてくれたなら
なんだか私が泣いてしまいそうだ

「六花」
『!、あ…もう買ったの?』
「お前がぼやーっとしてる間にな」
『そんなにぼんやりしてたんだ…』
「とりあえず、今あれこれ考えても仕方ねえだろ。こればっかりは本人の気持ち次第だからな」
『そうだね』
「けど」
『?』

楽し気に笑いながら言われたその言葉に、私も大きく頷いたんだ









どうか泣き出す空よ、そのワケは心温まるものでありますようにと

ぐずつくあなたを見上げて祈った








 



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