嫦娥の花宴 | ナノ



お題:休暇




勝利の女神が微笑む先は、





「…輝取り囲んでなーにやってんの、アイツら」
『やあっと起きてきたなこの寝坊助』
「オハヨーさん」
『おはよう。暇潰しのネタを提供しただけだよ』
「あん?」
『ほら、私たちこないだの一件で竜王から特別休暇貰ったじゃん』
「あー…そーいやそんなこと言ってたな。堂々とサボれて羨ましい限りだわ」
『ところがどっこい。今朝朝一番でご不満顔の輝が襲撃しに来てさ』
「要は叩き起されたと」
『そ。開口一番に"何をすれば良いかわからない"って。問答無用で布団引っペがされたワケよ』
「そりゃご愁傷サマ。んで?そっからどーやってあの人集りに繋がんの」
『題して"輝を笑わせようゲーム"。一分以内に睨めっこで輝を笑わせたら特典が付きます』
「へえ。そりゃハイレベルな睨めっこだな」
『彼らの特典は3回分の下界討伐免除権。輝が代行するってやつ』
「…あいつのスケジュール考えりゃ、そんなヒマ無さそうなんだけど」
『負ける気ないからその条件突き出したんじゃない?』
「なーるほど。因みに輝の特典って何よ」
『竹刀使ったガチの一本勝負』
「…。」
『明日は確実に足腰立たないだろうねぇ、彼らは』
「お前な…分かってンなら止めろよ。輝相手にガチ勝負とか笑えねえぞ」
『待ったナシのスパルタ指導は必須だね』
「はあ…」
『明日討伐任務が入らない事を全力で願おう!』
「おーいお前ら!勝ち目のねぇ勝負に挑むぐれぇなら普通に訓練しろっての!」
『あっちょっと!面白そうなんだから止めないでよ!こらそこの寝坊助っ』




果たしてどちらに軍杯を上げるでしょう。




***************


お題:〇〇しないと出られない部屋


全ての質問に答えない限りは出られません。
リストを手に、では早速どうぞ。



『…』
『しょっぱなから不満全開な顔しないの』
『コレに答えて意味なんかあるの』
『こういうのは意味を求めた時点でアウトだと思ってる。さあいってみよう第一問目!』
『…はあ』
『"二人の趣味はなんですか"……趣味、ねえ………昼寝?』
『変わり者集団の隊長にしては、また随分と捻りのない回答だね』
『変人だろーと真っ当だろーと、昼寝は大事かなと』
『なるほど。黎明らしいと言えばらしいけど』
『輝はどーよ、趣味』
『あると思うの?』
『もうこの際敖潤殿に関わる事でも良しとする』
「…」
『(それなら考えるんかい)』
『その時々の敖潤に合わせたお茶を淹れる』
『…ソレって趣味と言うより日課じゃなくて?』
『趣味も日課も似たようなものでしょ』
『そーきたか。確かに間違っちゃない気もするけど…因みに他は?』
『……強いて言うなら、自然観察くらいじゃない』
『ああ!そーいや、下界に観光行った時ガン見してたっけ』
『何も考えないで済むから楽なんだよ。気分転換にもなる。それに、どこかの誰かさんが見計らったように連れ出すから』
『だって輝ってば仕事一本過ぎんだもん。たまには脳ミソ休めないと沸騰すんじゃないかなって』
『お気遣いどうも。じゃあ次行くよ…"最近驚いた出来事"……この前片付けたばっかりなのに天蓬の部屋が悲惨だったこと』
『一週間でカオスに元通りだよ。短期間すぎて記録更新だわ』
『どうしたらああなるのか未だに謎。あとは天蓬の寝室もどうなってるのか謎』
『ソレには触れちゃいけない』
『…。討伐時よりも真剣な顔で首振るってどうなの』
『開けたら最後、生きて帰って来れない気がしてる。私も捲簾も』
『その辺の心霊スポットよりホラーだね。それで?黎明はなにかあるの』
『この前捲簾が女官に告白されてんのを偶然見かけたこと?』
『…。』
『変人集団に告白するってすんごい神経図太くないと出来ないよね』
『…。』
『え、なにその顔』
『黎明って平和だよね。主に思考回路が』
『なんか貶されてない?』
『気の所為ってコトで。』
『んん。釈然としないけどまあいいか』


※随時更新予定


***************


お題:鬼ごっこ


『いやいやいや。まだ始まって30分経ってないからね、おとーサン』
「うるせぇ…っ、だれが…お父さんだ…!」
『ほら頑張って逃げてよ。せっかく私が鬼役買って出たんだから。チビちゃんズは目にも止まらぬ速さで駆け出してんのに』
「俺を悟空とナタクと比べてんじゃねェよ…!」
『金蝉もたまには筋トレとかしたらイイと思うんだよね。ってことでほら、逃げた逃げた』
「へービースモーカーがなんだって息切れもなく全力疾走出来んだよ」
『そこはほら、日々の鍛錬的ななにかだよ』
「こんぜーーんっ!!早く逃げないと黎明姉ぇに捕まっちゃうよ!」
「大人なんだろー!しっかり走れって!」
『うーん。チビちゃんズを狙った方が楽しそうだなあ』
「そう思うんなら初めからあの動物コンビを狙いやがれっ」
『よおーし。悟空ー、ナタクー!今から標的変更するぞー!10秒数えるから全力で逃げろー』
「わっ、黎明姉ぇがコッチ来るっ!!」
「悟空っ、本気で逃げないと捕まるぞっ!急げ急げ!」
「わーーーい!」
『じゅーう、きゅーう、はーち、なーな、ろーく、ごー、よーん、さーん、にーい、いーち…ぜろーっと。そら逃げた逃げたー』
「!、速っ、めっちゃ手加減してただろ黎明姉ぇ!!」
「ナタク走れって!追いつかれるーっ」
『可愛い子はどーこだー』
「「逃げろーっ!!」」
「…あんの動物コンビを追いかけるとか、なんなんだあいつは」
『どおりで騒がしいと思ったら。こんな所で何してんの、金蝉』
「!、輝か…チビ達に付き合わされて鬼ごっこだ。ったく、こっちはそんなヒマねぇってのに」
『…』
「…なんだその顔は」
『金蝉も走れたんだなって』
「…。」
『それで黎明があの子たちの相手してるの。見てみなよあの顔、黎明なんて本気じゃない』
「…負けず嫌いなのはお前たち全員共通じゃねェか」
『ああ…言われてみればそうかもしれないね』
「…混ざんなら適当に混ざりゃいいだろ」
『大人二人でなんて卑怯でしょ。いいよ、たまたま通りかかっただけだから』
「…そうかよ」
『全力で童心駆使して遊んでるよね。ああほら、ナタクが捕まった』


でも楽しそうだと僅かに目元を緩める珍しい表情に瞠目して、

こいつも随分と柔らかくなったもんだと関心した


***************


お題:名前の無い関係性


『これって、常に身につけておいていいの』
「竜玉のことか。邪魔にならないのであれば好きにするといい」
『邪魔だなんて思わないけど。敖潤はずっとあの場所に保管してたんでしょう。物が物だから私も保管場所作るべきなのかなって』
「私は身につけるのが面倒だっただけだ。恐らく敖広たちも自分自身で身に付けてなどいない」
『生命そのものって言うわりには、ほんと重要視してないよね彼らも』
「ああ。あの一件が起こるまでは竜玉そのものが話題にすら上がらないものだ。特別警戒する必要もないだろう」
『今は明るみに出たんだから少しは重要視したらどうかとも思うけどね』
「? 私のそれは既に輝へ託してある。自室で保管するよりも余程厳重な管理下にあると思うがな」
『まあね。身に付ける以上は最期まで守り通すけど。…ねえ敖潤』
「なんだ」
『もし私がこの竜玉を身に付けたまま姿を眩ませたらどうする?』
「輝がか」
『例え話しだよ』
「…そうだな。お前が起こす行動には必ず意味が伴う。一月経っても戻らなければ、その竜玉に込めた私の気を追って迎えに行こう」
『…私が戻ってくる前提の話だね、それ』
「? 違うのか。輝ならば例えなにが起ころうと離脱することなど無いだろう」
『…間違ってはないけど。なんていうか…自分でも思うけど奇妙な関係だよね。私たちって』
「そうか。特別不思議に感じたことはないがな」
『敖潤はそうだろうね。自分で言うのもアレだけど、良く私を補佐官にしようと思ったなとは感じてた』
「お前の目が好ましかっただけだ」
『へえ?』
「目は口ほどに物を言うとは本当らしい。加えて実力が伴うのであれば、目に止まる」
『竜王殿にお褒めいただき光栄です、ってね』


この先も精進するよと薄く微笑む彼女の姿に

私も同じように口元を緩めて眺め見た


***************


お題:ハグをしないと出られない部屋



巻き込まれたのが自分で良かったと、そう心底思ったんだ



「…なんだこの部屋」
『あー、この部屋の作り見覚えがあるわ。確か決められたお題をクリアしないと開かないんだっけ』
「なんっだそりゃ。タイミング最悪だな」
『今から出陣なんだけどねえ私たち…えーと、とりあえずアレだ。捲簾、どっかにお題あるから探そ』
「つか、なんでお前はそんなナチュラルに対応してんのよ」
『前回別件で輝と閉じ込められたんだよねー。こういうのはツッコんだ時点で負けなんだよ』
「…なるほどな。まァたどっかの誰かさんが暇潰しで作ったんじゃねーのか、コレ」
『言えてるー。でも発動するタイミングが鬼』
「昇降機に向かう途中でとか意味わかんねえよな。俺らサボってイイんじゃね?」
『捕獲レベル16だからまあそこそこイケるんだろーけどねー。でも、バレた時の輝の顔が恐怖なんでお題探しマース』
「あー…下手すりゃ竜王の説教つきか」
『うーん…こないだはこれ見よがしに紙切れが落ちてたんだけどなあ』
「…」
『真っ白な壁しか見当たんないわ。繋ぎ目もないんだよねココ』
「……なあ六花」
『はいはーい。突っ立ってないで探してねー。出陣間に合わなくなるからねー』
「…とりあえずそのまんま天井見上げてみ」
『あん?―――…、あーーー…上か』
「"ハグしねぇと出られねえ部屋"って…どこぞの少女漫画かっての」
『下界じゃ鉄板ネタらしいね、これ。てかどーやってあんな高い天井に文字なんか書いたんだろ』
「しかもムダに達筆だよなあの字」
『天蓬の筆跡とは違うね。なんだ、犯人は天蓬じゃないんだ』
「天蓬だったら戻った瞬間とりあえず殴るわ」
『過激ですね大将サマ』
「ヒマなら報告書の一つや二つ書けってな」
『ド正論。うっし。さあっこォーーい!』
「…。一応ツッコむがなんだよそのポーズ」
『両手広げてハグ待ちポーズ? ほらほら、早いとこ出なきゃでしょ』
「…」
『え。なにその盛大に刻まれた眉間のシワ』
「はあ…」
『おまけにめっちゃ深いため息もセットだった』
「お前な…ソレ、気安く誰にでもやるんじゃねーぞ」
『はい?』
「天蓬相手でもやんなよ。絶対えやんなよソレ」
『はい??』
「頼むからもう少しお前は自分が女だっつう自覚を持てって言ってんの」
『?』
「はいそこ。"何言ってんの"みてえなカオすんな」
『や、そのまんまなんですけど。だってハグすりゃ出れんでしょ?今は捲簾だし問題ないんじゃないかなあって思うワケよ』
「…信頼されてンのか眼中にねえのかわっかんねえな」
『そろそろ誰か対人間用の翻訳機くださーい!!』
「いーからほれ、ハグすんだろ」
『あ。これ私からいくパターン?捲簾が両手広げてハグ待ちポーズすんの?』
「ソッチの方が都合イイんだよ」
『? まあいっか。んじゃ遠慮なく』
「…黎明ってちっせぇよな相変わらず」
『捲簾は自分が規格外だって言う自覚をするべきだと思うんだよね』
「メシ食わねえからチビのままなんだろ」
『酒とタバコとツマミで育ったよーな人に言われても説得力皆無だわ…って、お。開いた開いた』
「…」
『開きましたよ大将サマ』
「…説教は免れそうだな」
『どの辺に出るんだろーねーこの部屋。どれどれ…うわっ、西方棟の入口じゃん。こりゃあ昇降機まで全力ダッシュだわめんどくさい』
「…ま、今の関係にゃ不満ねえしな。泳がせとくのもまた一興ってか」
『んー?なんか言ったー?』
「なんでもねえよ。ほれ、走んぞー」
『うえーい』


誰にでも分け隔てなく接する彼女だからこそ、きっと。

無意識のうちに湧き上がる感情を誤魔化すように、苦笑混じりで駆け出した。


***************


私たちが抱くこの感情は、きっと

世間一般で表現されるものとは違うけど


「…なんだ、この部屋は」
『ああ、今度は敖潤となんだね。この部屋の作りは見覚えがある』
「…?」
『たぶん何処かにお題が隠されてるんだよ。それをクリアしない限りは出られない』
「やけに詳しいんだな」
『前に一度、黎明と既に経験済み』
「そうか。妙な体験をしたものだ」
『私今月の軍費会計、まだ処理中だったんだけど。敖潤も天帝に報告する天書の書き上げ途中でしょう』
「ああ…しかし、見たところ扉も繋ぎ目も無いように見えるが」
『お題を探してみるから少し待ってて』
「…」
『ムダに時間を浪費家出来るほど暇じゃないんだけどね、私たち。前は六花が見つけてたけど…それらしき紙もない、か』
「輝」
『なあに』
「アレはなんだ」
『……、どうやったらあの高さの天井にデカデカと文字が書けるんだろうね』
「あの筆跡は彼らのものでは無いな」
『ん。天蓬も捲簾も黎明も、さすがにあそこまで達筆じゃあないよ』
「"ハグをしないと出られない部屋"とあるが」
『…はあ』
「あれが輝の言っていたお題と言うことか」
『どうやらそうらしいね。企んだのが天蓬じゃないとすれば、思い当たる節は一人しか居ないんだけど』
「…観音菩薩、か」
『あの人ならやりかねない』
「…」
『渋面を作りたくなる気持ちは分かる』
「…暇を持て余した結果と言うことか」
『完全に巻き込まれたんだろうね、私たち』
「だが、これをこなせばこの場所からは出る事が出来るのだろう」
『そういうこと。そう言えば、ハグってストレス解消になるらしいよ』
「なるほど…ならば試してみよう」
『ん。好きにしていいよ』
「…どうだ、輝」
『ああ…確かにこれは良いのかもしれないね。妙に落ち着く。敖潤はどう?』
「肩の力が抜けるような気はするな。…面白いものだ」
『下界の言葉もバカに出来ないってことかな』
「一理あるな。そしてこの際に尋ねておくが」
『なに?』
「輝、きちんと食事はとっているのか」
『…、適当に食べてるけど…珍しいね。敖潤がそう言う事を口にするのは』
「…常々思っていた事だ。見目からして余りにも細すぎる」
『その辺の女官たちと比べられてもなぁ』
「…」
『ねぇ。なんで今"思いついた"みたいな顔をしてるの』
「"仕事"を一つ増やそうと思っただけだ」
『まさかそれ食事をとる事とかじゃないの』
「昼時には執務室への入室を禁じよう。きちんと食事はとるように」
『…"仕事"って言えば私が従うって思ってるでしょ、それ』
「強ち間違いでは無いだろう―――…あぁ、どうやら開いたようだな」
『…はぁ。敖潤ってほんと過保護だよね』
「輝になにかあれば多方面からあらぬ心配の声が多く届く。体調管理を整える環境をつくるのも、上官の務めだ」
『ふふ…なにそれ。敖潤らしい』
「ちょうど今が昼時だろう。このまま大食堂に向かうのもいいと思うが」
『はいはい。敖潤殿の仰せのままに、ってね』
「ならば、共に行こう」


それでも確かに存在するこの温かさは、言葉は、想いは

私たちの中で変わることなく在り続ける

たった一つの繋がりなんだ


***************


お題:雪見酒(パロ/幼なじみ)


「あー、やァっぱ一人で飲むより旨いわ」
『ほう。ド深夜に突撃訪問してきた人の言葉とは思えないね』
「どうせ黎明も起きてたンだから結果オーライだろ?ちゃんとツマミも作ってきたしな」
『あのねぇ…日付け変わった頃合に普通人ん家襲撃しないからね』
「月明かりと雪とくりゃ、飲むしかねぇだろ」
『あれ。人の話し聞いてないや。ダメだこれ。』
「安心しろ。お前相手にしかやらねーよ」
『幼なじみって不便だ。確実に白羽の矢が立つもんね』
「平日のド深夜に"星が見たいから海に連れてけ"っつって叩き起したのは誰だろーな」
『…。誰だろーねぇ?』
「起きてた分、俺の方がまだマシじゃね?」
『うわあ雪見酒ってたーのしぃなー』
「こんにゃろ」
『まあでも、確かに今夜の月明かりと雪のコラボは絶景だとは思うよ』
「華麗に話題転換しやがって。…場所がベランダってのがアレだけどな」
『んじゃ、次は温泉かねぇ』
「なんなら混浴ってのはどーよ」
『寝言は寝て言おうね捲簾くん』
「三十路手前の男にくんはねーだろ」
『あー、熱燗うんまい』
「デザートが飲みすぎンなよ」
『…輝起きてるかな。襲撃しに行こ』
「残念な事にあいつは竜んとこで飲み会だとよ」
『……』
「因みに明日は土曜日だからな。早起きする必要もねぇし?」
『…この確信犯め』
「どっかの誰かさんが一向に同棲許可を降ろさねぇからな。ある意味実力行使?」
『輝ー、天蓬ー。今スグ迎えに来てー』
「はッ 諦めんだな」


月明かり、雪の煌めき、仄かに香る石鹸

飲み干したそれ以外の熱が宿った気がして。

柵に積もった雪を握りしめたんだ









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