嫦娥の花宴 | ナノ



うーん。別に、俺らはソレが普通だもんな。






「…あ。珍し」
「んあ? どーしたよ、悟空」
「…右足…んー、捻ったんかな」
「?」
「ちょっと俺救護室行ってくる」
「は?オイオイ、お前が昼飯中断とかマジでどーした」
「友香」
「んだから友香がどーしたんだっての」
「たぶんケガしてる!」
「…はァ?」

怪訝そうな声が食堂の雑踏の中に消えていった


例えば、同じ夢を見てたりとか
聞いてた曲が同じものだったとか
食べたいものが同じものだったとか


初めは、そんな小さなことだった。


「あ。やっぱし」
『来ると思った』
「…凄いですねぇ…予想的中です」
「…マジでケガしてたのかよ」

何となく感じた右足の違和感。迷うこと無く救護室に向かえばそこには右ふくらはぎ辺りまで包帯を巻かれた友香と松葉杖を差し出す八戒がいて。久しぶりだなこういうの何て思いながら駆け寄った
うん。折れてはいないみたい。良かった。

「珍しいじゃん。友香がケガすんの」
『階段踏み外したんだよ』
「うわ。まーた本読みながら歩いてたんだ」
『自業自得ですな』
「もー、金蝉に怒られても助けないかんなー」
『ほう。私を見捨てるのね』
「前もそれで転んでたじゃん。運動神経イイのに変なところでドジだよな友香って」
『言い返せないわー』

腕を差し出せば当然のように伸ばされる両腕
ため息と共に抱きあげれば二人がすんごい不思議そうな顔で見つめてたから。ああそっかって思い出したんだ。俺らのこれってちょっと特殊らしーからさ
とりあえずここまで付き添ってくれた八戒に御礼しといた

「友香が華麗に階段を踏み外した際、運良く居合わせましてね。受け止めるには受け止められたんですが、すみません。ケガまで防げなくて…」
「八戒のせいじゃないよ。これ、昔っから友香の悪いクセだから」
「美人な女がアザだらけになんのも勿体ねえぞ」
『ついつい先が気になって読み出しちゃうんだよ』
「でもホント危ないって。女の子なんだし、友香はもっと気をつけて!」
『ごめんごめん』
「ついでに言うと、このやりとり前回もしたかんな」
『意外と記憶力いいんだよね悟空って』
「友香ー」
『ごめーんなさーい』
「でも、友香も良く悟空が来るって分かりましたね。スマホで連絡した訳じゃ無かったでしょう?」
『ん。なんとなくだよ』
「なんとなく、ですか」
「悟空も急にメシ中断して立ち上がるモンだから、何事かと思ったぜ」
「んー。何となくだけど、俺らってお互いケガしたりすると分かるんだよな。同じとこがヘンな感じすっから」
「へえ。双子ってそういうモン?」
「どうでしょうね。僕と花喃にはあまりそういうのはありませんでしたから」

全国共通双子能力って訳じゃないけどさ。俺と友香の場合はこういうのってケッコーあったりするんだよな。腕の中を見下ろせば『また金蝉の説教か』って顰めっ面してるし。たぶん金蝉だけじゃなくて捲兄ぃや天ちゃんも心配すると思う。暫くは外出禁止令とか出されるかもだし

「一応先生の手当は済んでいますが、どうします?念のため病院に行った方がいい気もしますけど…」
「連絡すりゃ、過保護な誰かさん達が問答無用で連れてくだろ」
「ん。金蝉に迎えに来てもらうよ。ちょうど今日は仕事休みだって言ってたから」
『えー、このくらいのケガなら病院行かなくてもほっとけば治るのに』
「お前ね、そんなグルグル巻き状態でなァに言ってンのよ」
『先生が大袈裟なんだよ』
「あれだけ腫れも酷かったんですから、きちんと診て貰って下さい。悟空、スマホあります?僕が連絡しておきますよ」
「あ、サンキュー八戒!後ろポケットん中!」
「ナチュラルに姫抱きしてんのに違和感ねーのがすげえよな、お前らって」
「『ん?』」
「双子の特権ってヤツ?」
『悟空は悟空だからなー。悟浄達以外の男子に興味もないし』
「友香にもし彼氏とか出来たらたぶん金蝉達が凄い事になると思う」
『悟空に彼女が出来たらファンクラブの子たちが号泣するね』
「え。そんなのあんの?」
『知らなかったんかい』
「うん。別に興味無いし。友香が居ればいーよ、俺」
『まあそこは私も同じ』

双子だからとか、唯一の繋がりだからとか、そんなんじゃなくて
この世界でたった一人ずっと傍に居てくれた人だから
誰よりも何よりも大事だし、大切にしたいって思う
一緒に居られる間はそれこそずっと。

いつだって世界の中心には友香が居て、隣で笑ってる

自惚れる訳じゃないけど、友香だって絶対俺の事が最優先なんだってコトも知ってるし、解ってるから
なんとなく同じ色をした眼を見つめてれば重なった視線
『お腹すいたね』って笑うからそう言えば昼飯途中だったんだと思い出す。病院の帰りにメシ食べたいな。友香もどうせ食べてないんだろうから
ほっとくと一日1食とかで済まそうとするから困る。軽すぎてこんなんじゃ筋トレにもならないよ。そのうちホント骨とか折れちゃいそうで怖い。やっぱもっと食べるよう言い聞かせなきゃなあなんて

ケガに響かないようゆっくりと体の向きを変えれば、少し離れた所で電話してた八戒がスマホから耳を離した。

「金蝉なんだって?」
「診察券持って直ぐに向かうそうです。恐らく20分もすれば着くんじゃないでしょうか」
『病院行く気満々』
「当然です。因みに天蓬さんや捲簾さんにも、ラインで連絡してありますからね」
『うわあ』
「あいつら仕事抜け出して来るんじゃね?」
「あはは。有り得ますねえそれは」
「んじゃ、門で待ってよっか。あそこベンチあるし木陰だし」
「俺らも見送ってやるよ。んで、結果はちゃんと報告しろよー」
「グループラインでいれとく」
『え。待ってそれ絶対三蔵に"バカだろ"って言われるパターン』
「言われると思う」
「ま、言われるわな」
「言われますねぇ確実に」
『呆れ顔が目に浮かぶ…』

とりあえずは暫く大学の送り迎えは必須だよなあって。一応松葉杖もあるけど大学内は俺が背負って運べば問題ないし。友香は大袈裟だって笑いそうだけどまた変なところで転ばれても困るかんな。悟浄や八戒も手伝ってくれるだろうし、うん。やっぱ暫くは大人しく運ばれて貰お

「友香、トイレ行く時以外松葉杖禁止な」
『…みんな過保護過ぎるんだと思う』
「そー思うなら歩きながらの本はやめなって。夢中になると周り見ないんだから」
『むう。』
「じゃないと俺、四六時中友香に張り付くよ。まあ暫くはどのみち傍にいるけど」
『…まさかおんぶで移動する気なの』
「うん。する」
『待ってそれだと私悟空のファンクラブ敵に回す!おっそろしい事になる!』
「ちゃんと俺から説明するよ」

無理だからとか自分で歩くからとか騒ぐ友香に構わず歩き出す。
ほら、後の2人も苦笑いしてるじゃん。それにファンクラブとかあったの知らなかったし俺。友香のもあんのかな。女の人ならイイけど男だったらちょっと困る。後で八戒に聞いてみよ


外に出れば程よい陽射し

腕の中を見下ろせば、同じ色をした瞳が困り果てたように見上げてくるから

ああ同じ色だなって

場違いな安心感を抱きながら、諦めなよって笑ったんだ







この世界で、たった一人

絶対だと言いきれる存在

いつかお互いにそれ以上の誰かに出逢えるまでは、きっと

ずっと、そう。


離れずに傍に在り続けるんだろう













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