嫦娥の花宴 | ナノ



芽吹き、実り、咲き誇ったあとは



そう―――…そのあとは。









「…改めて思うと、あなたって結構歪んでますよね」
「うっせーよ。止めなかったお前も、結局は俺と同じこと考えてたってことだろうが」
「いやあ…まぁ、確かに」

光が満ちるその場所で 水のせせらぎが響くそこで

萌黄色の草原に横たわり くゆらせた白が2つ

傍らには満開に咲き誇る1本の桜の樹

はらり はらりと

惜しみなくその花弁を散らせていた


「暇ですねえ」
「"次"に行きゃ、そーでもねえかもな」
「嫌ですよ。…まだ揃ってませんから」
「…だな」


忘れない 忘れられるはずもない


後悔はしないと決めて飛び出した

息苦しくも愛おしいあの箱庭の中


置いてきた 託してきた存在を



「コレでどっかの誰かさんのお守りをしなくて済むってのは、正直願ったりだけどな」
「おや。人間息抜きは大事なんですよ」
「お前の場合は限度っつうモンを知らねえだろ!何回俺らに報告書押し付けたよ」
「あっはっは」
「コッチはそのたんびに寝不足だったっての」
「ああ…では、"次"はもう少し真面目に生きてみましょうか」
「おーおー。なら、俺は逆に肩の力抜いて生きてやるよ」
「あなたがそれをすると、碌でもない方向にしか発展しない気もしますけどねぇ?」
「今のお前に言われたかねーわ」



きっと彼女のこと あまり時間はあかないんだろう

見上げた枝の先にぶら下がるソレ

"結ぶ"ことの意味を 想いを

最大限に込めて願った



ああ―――…ほら、な。



風が吹く 視界の隅で 白銀が煌めいた



『―――…』
「…くんの早くね?」
『これでも粘った方』
「泣かれたろ」
『あの泣きっぷりは初めて見た』
「ははッ だろーな」



いつの間にか 落ちた影

音もなく佇んだ彼女が 薄らと微笑うから

手を伸ばして触れたさき 白銀が靡く


約束、したからな



「…託してこれましたか?」
『……ん』
「そうですか」
『"次"はコスモスかな』



満足そうに けれど どこか寂しげに

そう言って"振り返った"彼女の視線を追う


俺らには、もう


手を伸ばしても届かない場所


身体を起こして 座り込んだまま


繋げた生命にひたすら願う



「…おつかれさん」
『ふたりもね』
「"次は"もう少しまともな人間になろうかと」
『それは…いい心がけだと思う』
「俺はもう少しハメ外した感じってことで」
『想像できないね、それ』
「お前さんはどーよ」


笑ってろよと 強くなれと


そして―――…自由に生きて欲しいと



身勝手だよな



『…わたしは』


思わず零れた苦笑に 彼女の言葉が宙を舞う


まるで遮るかのように吹き抜けた 一陣の風


舞い上がる花嵐の中に見つけたのは


彼女とは違う色を纏う者



「…おや。とうとうですか」
「こんな所でなにやってんだ、お前ら」
『あ』
「真打ち登場、ってな」
「…」



恨まれる覚悟は出来てんだ


俺も、彼女も、こいつらも





それでも―――…それでも。





「ちゃーんと繋いできたんだろうな、お父さん」
「誰がお父さんだ。…あんな悪ガキの躾なんざ御免だな」
「そんな顔して言っても、説得力皆無ですけどね」
「…うるさい」
『"次"も変わらなさそう』
「あ?」
『きっとね、同じだよ』
「…」
『繋げたら…つながるかな』
「…大丈夫だろ」
「"次"のお楽しみってことで」
「どうせならもっと人間らしくなったらどうだ」
『…そこでなんで私をガン見するのかな』
「さあな」



立ち上がる 歩き出す


それこそ 色んな想いを背負った一歩だ


置いてきた生命と 託した想い


枝の先で揺れる "結んだ願い"



「―――…んじゃ、いくか」
「…ええ」
「下界の桜、か」
『笑ってくれたらいい』
「にしても…アッチは大丈夫かねぇ」
『輝がいるよ。たぶん、大丈夫』
「あははっ、確かに。僕らの分は輝に任せるとしましょうか」
「今ごろあいつ顰めっ面してんじゃね?」
『言えてる。でも…なんだかんだ全部引っ括めて、輝は上手くやる』
「お前らの後始末を押し付けられんのか。不憫だな」
「否定出来ないあたり、痛いとこついてきますねえあなたも」
「フン」




溶けていくような感覚の中 視線を落とす


漆の瞳に映りこんだ自分自身


繋いだ手の温もりは まだ 感じ取れるから




並んで歩き出した俺たちの背に 揺らぐ思念に







捲兄 天ちゃん 六花姉ぇ 金蝉!






「「「…」」」
『―――…うん、また…いつか』





ありがとう!







そんな言葉が 聞こえた気がした。











始まるために 終わった物語



繋がれ 繋がれと


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