嫦娥の花宴 | ナノ



明るい未来を繋げるために。

生き続ける、ために。





『あれ。珍しい』
「ああ…見つかっちゃいましたか」
『ちょっと遅めの反抗期かな』
「あはは。そんなんじゃないですけど、ちょっとした気分転換にと思いまして」
『なるほど。』
「ここは空気が綺麗ですから」
『それは同感』
「結香こそ、悟浄と一緒じゃないとは珍しいですね」
『三蔵と卓球中。いつの間にか命懸けの死闘に発展してるけど』
「あの2人がですか…それはまた荒れそうですねぇイロイロと」
『器物破損だけは免れたいところ』
「そんな事になったら他人のフリです。悟空は?」
『対人ゲームがあってね。お金渡してきた』
「そろそろヒマ死にしそうでしたね、そう言えば」
『退屈が大敵っていうのも面白い』

辿り着いた山奥の宿。年末からお世話になっているこの場所で、どうせだから骨休めでもしましょうと提案したのが八戒だった
ギリギリまで山奥を爆走し、空気を読まない連中を叩き潰した数は100を超えただろう

たまには長らく休んだところでバチは当たらないかと。
そう思ったのも事実だ
庭先を抜けて辿り着いた池の前
月光を背負う八戒の口元には見慣れたそれ
悟浄に貰ったのかな。香りが馴染みすぎるから
吐き出された白は優雅な曲線を描いてこの澄んだ空気にきえていく

そうか。八戒も吸えたんだね。

『こういうところ、かな』
「結香?」
『愛しさと切なさが渦巻く瞬間っていうのは』
「…?」
『いいの。私の独り言』
「…それは、”今の”貴女の言葉でしょうか」
『…ほんと鋭いよね八戒も』
「なんといっても結香の事ですからね。当然です」
『愛されてる実感すごい持てる』
「それはなにより」
『…ちゃんと私の言葉だよ』
「そうでしたか…それなら、良いんです」
『八戒も吸えたんだなあって』
「まぁ結香達ほどではありませんけど。昔に少しだけ吸ってた事はありました」
『そっか。』
「…懐かしそうな目ですね」
『ん。』
「寂しくはありませんか…?」
『嬉しいよ。ちゃんと今に繋がってるんだって、そう思えるから』
「…」
『愛おしいんだよ』
「そうやって微笑ってくれるなら…僕はそれが1番です」
『悟浄も八戒も優しすぎる』

私の苦笑混じりの言葉に柔らかく微笑んだその表情も、優しい声も。
私にとってはどちらも大切な人だから
同じように隣に並んで取り出したノアール
気付けば飽きやすい私が3年も同じものを吸い続けている。きっとこれは変わらないんだろうなあなんて

ぼんやりと火を灯して昇る煙を目で追った
冬の澄んだ空気が肺を満たす。

『抱負』
「奇遇ですね。僕も先程からずっとそれを考えてたところです」
『こういう思考は私たち似てるよね』
「ええ。あの3人が考えるとも思えませんし」
『八戒はなにか浮かんだの』
「今年は去年以上に難関な旅路になりそうなので、回復術を極めようかと。結香にばかり負担をかけたくはありませんから」
『気遣ってくれてありがとう』
「とんでもない。そういう結香はどうです?なにか決まりましたか」
『んー』

消えていった煙。昇る先は同じであればいいと願ったあの頃
今も変わらずに傍に居てくれる存在
そして、変わり続けるこの世界の在り方

人も、妖怪も、神も。

変わらずにはいられないのかもしれないけれど

『変わらないものを探す旅へ』
「…?」
『私があの日、みんなと共に旅を続けることを決めたのは…それが何なのかを探すため』
「…」
『そして、最期はまだ、知らないから』
「懐かしいですね、その言葉」
『うん。だから私は…そうだな。変わり続ける世界の中で、変わらない私たちの在り方を看届けること。もちろん、最期まで』
「…とても結香らしいと思います」
『こう思えるのも皆の存在があるからだよ』
「是非とも叶えて欲しい抱負です」
『全力で努力する』
「けれども無茶な行動は慎んでくださいね?次に何かあったら、今度こそもれなく全員の心臓止まりますよ」
『…、肝に銘じておく』
「そうしてくれると助かります」

生き続けている限り、変われることはある
それと同時に…生き続けている限り、変わらず貫き通せることもある

その両方を見つめていけば…

そう。いつか、きっと。

『―――…笑って眠りにつきたいな』
「大丈夫ですよ。僕らなら」
『ん』







桜が舞うその樹の下で…

いつかの約束を叶えたいと







そう強く、心に刻む。












← | →
 
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -