嫦娥の花宴 | ナノ



いつかのキミは、それを見て

嫌いなのだと言っていたから。







『りんご』
「…」
『いちご』
「…」
『炎』
「おーい?」
『あとは梅の花と…ポストもそうだっけ』
「今度はどんな遊びだよ、ソレ」
『悟浄が好きだよって話』
「すんげー愛されてンな俺」
『その分たくさん愛されてるからね』
「自覚してくれてんならなにより」

身に染みる寒さが本格的になってきた冬
この桃源郷にもちゃんと四季は存在するんだと、そう初めて知った一年目。
西へと近づいてきている今も、それは変わらずに私たちの傍を巡り続けている
鮮やかな紅葉が大地へと還った数か月前
いまでは味気ない色がもの悲しさを一層際立たせては、その次に来る季節を待ち望んでいるように見えた

そういえば明日は雪が降るかもしれないとか言われたっけ。
山に囲まれるように栄えたこの町に辿り着いたのは、数時間前
今夜は夜通し走るのも野宿も危険だと老人に忠告されたから、じゃあ今夜は泊まりですねって八戒が宿をとってくれた
山に囲まれているだけあって、温泉が豊富な町だ
まあ今はその熱よりも、この身を包むそれの方が心地よく感じてしまうのだけれど。

仄暗い部屋の中。
窓から差し込む僅かな月明かりに照らされるその表情と、
頬にかかる大好きな色
突き立てられた熱が…この身も心も満たしてしまう

「んで?」
『ん。』
「珍しい愛の告白は誘ってンのか?」
『…誘うもなに、も…現在進行形だと思う』
「そりゃあな。なんたって個室に泊まるのなんざ数か月ぶりだし?」
『…』
「出来れば今スグにでも動きたいんだケド」
『っ、ん…っ』
「相変わらずイイ声してるよな、結香って」
『へん、たい』
「可愛らしいカオしてストップかけっからだろ。焦らしプレイが好みとはな」
『は、ぁ…、だって…っ、きれいだなって』
「あ?」
『いつも、いつも…私はそう思うけど』
「…」
『きらいだったでしょう。悟浄は』
「…昔ほどでもねーよ。結香が気にいってくれたからな」
『きらないでね』
「お前がそのまま伸ばすってんなら」
『ん。じゃあ、のばす』
「そんじゃ、再開ってコトで」
『!、ま…きゅう、に…ぁっ』

グンッと下から突きあげられてしまえば、

あっけなくこの口から零れるその声も

一瞬でのけぞってしまうこの身体も

今では全部…彼のイロ

目を閉じて堪えることしか出来ないその渦に…

いつだって呑み込まれて溺れてく

意地悪くも弱いところを執拗に攻め立てられるせいで、声なんて抑えてる余裕もない

ギリギリまで引き抜かれたところで、彼の大きな手のひらがのけぞる私の背を撫でる

『は…ぁん…っ、?』
「俺としちゃ、お前の色が一番好きだけどな」
『あ…や、だ…そ、れ…!』
「そういいながら、いつもイイ声だすのは誰だよ」
『や、ぁ…!、〜〜〜ぁぁっ』

感じるポイントなんでのは、その人それぞれ違うんだ

王道でいくならそれは耳だったり鎖骨だったり

けれども、どうしてか。


彼に言わせると私は昔からソコが弱いらしい。


撫でられた背中と共に強く穿たれた熱

それに一瞬でもっていかれた意識のまま、荒ぐ呼吸を繰り返す

『はあ…っ、ぁ…う…』

僅かな低い声と共に胎内へと流れ出た想いは…
いつの日か実ることはあるのかなぁって

無意識に願う未来の風景に、そっと閉じていた瞼を持ち上げた

「ほーらな。イイ顔」
『…もっ、やだ…この人』
「可愛いお前が悪いんだって、いつも言ってんだろー」
『うるさいですよ』
「ははッ、結香の方がりんごみてぇ」
『…』
「今更気にしちゃいねーよ。お前が好きだって言ってくれっから」
『…うん。好きだよ…生きてるものの証だから』
「お。懐かしいなその言葉」
『いつだって、ずっと…そう思ってる』

優しく頬に添えられた大きな掌。
くすぐるように撫でる、から
そっとその手に擦り寄って
ねえ…届いてるかな。
あなたを象るすべてのものが、愛おしいのだと。

あの日…後悔はしないと選んでくれたあなたに

「結香?」
『…人も、妖怪も…等しく流れるその色を、他の何かで埋め尽くす』
「…」
『生きてる、証。命を燃やす…炎の色』
「…結香にもあるんだろ、俺と同じ色」
『あるよ。だから大丈夫。私は悟浄のそれも大好きだから』

いつかの何処かで生きたあの人は、人とは違う私を見て綺麗だと笑ってくれた

立場があの頃とは逆になったいま…その意味が、痛いほど分かるんだよ


綺麗なのだと、そう思わせるそれすらも愛おしい


「…なーんか、やっぱ一生結香には勝てるきしねぇわ」
『ん…そこはね。譲らないよ』


包み込んでくれる人

愛してくれる人


目の前でうっすらと苦笑する悟浄の腕の中、

たゆたうように意識が霞む


ああきっと…あの頃の姿をしていた私と、言葉をくれたあの人と

私たちは同じように想えているんだねって



大好きなその色を握りしめながら、微睡みに沈む





「…お前が初めてだったンだよ。無条件に愛してくれたのも…俺が唯一、本気で欲しかったモンも」


眠る彼女の穏やかな寝顔

想いを寄せたその先は、いつだって泣きたくなるほどあたたかいから

変わってくれるなよ、と


祈りを込めて口付けた















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