嫦娥の花宴 | ナノ



無意識なんですねぇと

そう楽し気に言われた言葉に顔を見合わせた。






「あれ?八戒、なにやってんの?」
「ああ悟空。おはようございます」
「おはよー!」
「三蔵はまだ寝てるんですか」
「うん。夜明け前に奇襲うけた時って、ゼッテー寝起き悪いから声掛けなかった!」
「ああは。触らぬ神に祟りなし、ですもんね」
「そーゆーこと。ってか、結香姉ぇたちも起きてたんだ」
「それがですね、ちょっと面白い会話を耳にしまして」
「?」

二日前に立ち寄った町の宿。
西へと続くにつれてその文化も多少の変化が見て取れるようになっていた
そんな中、ロビーの窓際で座る二人はいつものように白煙をくゆらせながら俺たちが起きるのを待っているんだろう
悟浄が早起きしてるのって、俺からすれば珍しいけど

少し離れた場所に座る八戒に促されて、俺もその隣に腰を下ろす。
なんだろ。八戒がすげえ楽しそう
訳が分からず首を傾げて見つめていれば、聞いててくださいねと二人に視線を飛ばすから
なんだろうって。結香姉ぇと悟浄の声に集中してみる


「ふぁ〜〜〜…ねっみぃ…」
『いつになっても朝は弱いよね。早く寝ればいいのに』
「人間夜更かししたくなるモンなんだよ」
『妖怪も同じだから奇襲仕掛けてきたってことかな。傍迷惑極まりない』
「今更だよなーソレも。けど、そのせいでお前も寝不足じゃねえか」
『軽く睡眠はとれたと思うけど』
「どう見てもそんな風には見えねえケドな。クマ住んでるぞ」
『雑木林にでも逃がして来ようかな』
「なんじゃそりゃ。お前実は眠いんだろ、三蔵起きるまで此処で寝とけ」
『煙を吸いたい気分だから寝ない』
「意地張って途中でブッ倒れたりしてみろ。もれなく俺の心臓止まるぞ」
『そんな寝不足で倒れるなんてことあったっけ。覚えてないよ』
「良く言うぜ。過去にソレで何回ビビらされたと思ってンだ」
『だってそれはまだ暗闇が苦手だった頃の話』
「しっかり覚えてんじゃねえか」

聞こえてきたのは、いつも通りの他愛のない会話。
…あれで無意識なんだから、やっぱりあの二人ってすげえよなって思う。
初めてきいたかも。こういうのって本当にあるんだ
目を瞬かせて思わず盗み聞くように耳を澄ませて拾っていれば、八戒がまた嬉しそうに笑っていて
なんで八戒が嬉しそうなんだろ。

「無意識ですよねえ絶対。」
「ん。俺もそう思うけど…八戒なんか嬉しそう?」
「あ、わかりますか?」
「分かるって。そんだけやっさしそーな笑顔浮かべてたら!」
「いやあ…なんか自分でも変だなあとは思うんですけど、何となく懐かしいなって思えたんですよ」
「え?昔から二人ってあんな感じだったけ?」
「いいえ。3人で暮らしていたころも、あんな会話の仕方は聞いた事ありませんでしたよ」
「んー?」
「ね?だから僕も不思議なんです」

面白いからもう少し聞いていましょうって
そう笑って、頬杖をついて耳を澄ませる横顔が
なんだかとても…あったかくて、優しくて。

いつかのどこかで、一瞬だけ。

その慈愛に満ちた横顔を…見たことがあるような気がしたんだ。


「なつかしい…かぁ」


俺にはそう思えるような記憶は、まだそんなに多くはないけれど

でもさ

みんなで過ごすこの時がずっと続いていくななら

いつかは俺も、何かを、そして誰かを

懐かしいと思える日がくるのかもしれない。



そう思いながら、俺もそっと、耳を傾けた。














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