嫦娥の花宴 | ナノ



今のこの世の中、様々な文明の利器が日々生まれ続けている
それは私たちの生活に大きく影響を及ぼすものが多く、この小さな機器もまたその一つなのだ








「六花ー、さっきからすっげぇスマホ鳴ってんぞー」
『連続でってことは、ユキかな。』
「いんや?例のアレだろ」
『ああ…グループトーク?それなら捲簾の所にも来てるじゃない』
「俺は通知切ってるからな。一度始まったら暫く止まらねえだろ、あいつら」
『なるほど…ふふ、確かに。ユキと悟空は画面上でも元気だよね』

良く晴れた秋のとある日常。
台所で朝食の後片付けを終えた六花が、リビングで寛ぐ捲簾に視線を飛ばす。
テーブルには私のスマホと彼のスマホが仲良く鎮座していて、先程からひっきりなしに音色を放つ様子に小さく笑った

『はい、コーヒー』
「サンキュー」
『さて。今朝はどんな会話してるのかな』
「昨日は朝食の報告会だったよな」
『うん。美味しそうだった』
「六花のが一番美味い」
『お粗末さまでした』

画面を開いた先に見えたのは、満面の笑みでピースをする悟空と、その隣で怪訝そうに眉を潜めた金蝉が映された写真が1枚
背景からするに、どうやら2人は山へと来ているらしい
青空と緑が綺麗な場所だ

―――――――――――――
あははっ、金蝉は相変わらず
写真苦手なんだね〜     既読2
――――――――――――― 8:17
――――――――――――――――
カメラの位置教えたんだけどさ〜
全然視線合わねえのw       既読2
―――――――――――――――― 8:17
――――――――――
すんごい金蝉らしい笑
あ、既読ついてる!
六花かな!?     既読2
―――――――――― 8:17
――――――――――
六花姉ぇっ!?
六花姉ぇ起きたの!? 既読2
―――――――――― 8:17
    ―――――――――――――
おはよう、朝から元気だね 
既読2 悟空と金蝉、何処に居るの?
8:18 ―――――――――――――
――――――――――――――――
六花姉ぇおはよう!!
金蝉と一緒に山登ってるトコ!!
すっげー空とか山とか綺麗なの!! 既読2
―――――――――――――――― 8:17
―――――――――
六花おはよー!
相変わらず早起きね
捲簾まだ寝てんの? 既読2
――――――――― 8:18

―――――――――――――――
あの金蝉が山登りって…    
途中でぶっ倒れんじゃね?   
って捲簾がぼやいてる     

ユキおはよう。        
そういう貴女も早起きね笑   
既読2 捲簾なら隣でコーヒー飲んでるよ
8:18 ―――――――――――――――



「あのインドア派が山登りなんざ…どういう風の吹き回しだ?」
『きっと悟空の影響だと思う。あの2人ってたまに正反対なところあるから』
「言えてる…ま、良い意味で変わったよな、アイツも」
『悟空に感謝しなくちゃ』

瞬く間に次々と繰り広げられるトークに笑って、どうせなら参加したら良いのにと視線をあげる。私がやっているなら良いだろって笑ってるけど、実はみんなでこうしたやり取りが出来ること…結構好きだったりするのだ。
気軽に、そして手早く
離れた場所にいる大切な人達と、こんなふうに気持ちを伝える事が出来るなんて

まえの世界では考えたことも無かったから。

『捲簾も』
「くくく…そんな嬉しそうなカオされちゃあな。ま、断る理由もねえ」
『楽しいよね。』
「ん?」
『バラバラな場所に居るはずなのに、こうしてると皆同じ場所にいられるような気がする』
「それは…何処に行こうがどうなろうが、俺らが"繋がってる"っつう証拠だろ」
『…うん。だから、嬉しい』
「LINE一つでお前が喜んでくれんなら、あいつらも本望だな」
『ふふ…そうかなぁ』
「つーか、金蝉はなにやってんだ。まさかへばってんのか?」
『さあ。…息切れ?』
「悟空はペース早えからな。有り得るぜそれ」


―――――――――――――
つか、当の金蝉はどーしたよ
既読3 もうへばってんのか笑   
8:20 ―――――――――――――

――――――――――
ほぉ。それは誰の話だ 既読4
―――――――――― 8:20
――――――――――――――
金蝉なら隣でお茶飲んでるよ!
俺は2度目の朝メシ〜     既読4
―――――――――――――  8:20

―――――――――――――
景色がいいと余計に美味しく
既読4 感じるから不思議だよね  
8:20 ―――――――――――――

――――――――――――――――――
マジでそれ思う!!
だから六花姉ぇの料理もゼッテー
もっと美味しく感じる!!
六花姉ぇの作るもん全部美味いけど!! 既読4
―――――――――――――――――― 8:20
――――――――――
あ、捲簾発見。
金蝉も生きてたんだ〜
良かった良かった!  既読4
―――――――――― 8:20

―――――――――――――――
どうもありがとう。      
またいつでも作ってあげる。  
だからリクエスト、考えといてね

ユキは野性の捲簾を見つけた  
既読4 っていうフレーズが頭に浮かんだ
8:21 ―――――――――――――――

―――――――――――
オイ、勝手に人を殺すな 既読4
――――――――――― 8:21

――――――――――――――
根っからのインドア派が   
やけに頑張ってんな笑    
既読4 ケガして帰ってきてら笑うわ。
8:21 ――――――――――――――
――――――――――――――
あとユキ、お前はそろそろ  
既読4 俺をポケモン扱いすんのやめろ
8:21 ――――――――――――――

――――――――――――
ええ〜?
心配してあげただけだよ笑
金蝉体力ないからw    既読4
―――――――――――― 8:21
――――――――――――
このくらいでヘマするほど
鈍ってねえよ       既読4
―――――――――――― 8:21
―――――――――――
ええっ!?
捲兄ぃポケモンなの!?
すっげー!かっけー!  既読4
――――――――――― 8:21

―――――――――――――――
おいユキ。          
既読4 スペシャルド天然児生まれてんぞ
8:22 ―――――――――――――――

――――――――――――――
悟空、実はね。
捲簾は六花の守護ポケモンなの
属性はドラゴン。特技は威嚇  既読4
―――――――――――――― 8:22

―――
既読4 オイ。
8:22 ―――
―――――――――――――
隣で猿がすげぇ目を輝かせて
コッチ見てくるんだが。
お前、いらん嘘を教えるな  既読4
――――――――――――― 8:22


堪えきれなくなって肩を奮わせれば、隣で彼が大きく息を吐き出した。
ごめんね、つい可笑しくて。
特技が威嚇だったのは初めて知ったよ

「…お前も楽しそうね」
『ふふ…まぁね。悟空の様子を想像したら、なんか可愛くて』
「いたいけな少年に嘘教えんなよなあいつも」
『可愛いよね、ほんと。』
「疑うってコトを知らねえからな悟空は。俺らが言ったことは全部素直に信じちまうぞ」
『じゃあこれからも捲簾はポケモンっていう設定で通さなくちゃ』
「くくく…間違いを訂正するっつう選択肢はねえのか」
『私はトレーナーになるのかなぁ』
「完全に楽しんでるだろ、六花」
『割と。』

この間にも話はどんどん進んでいて、途中から諦めたのか。金蝉の言葉が投げやりになってきている。山頂につく前に違う意味で疲れちゃいそうだよね
分かってても止められないのは、悟空の反応が一つ一つ可愛いから
その場で見られないのがとても残念に思えるほど

そして未だ誰も触れてないけど、天蓬はどうしてるんだろう。
まぁ十中八九、また貫徹して寝ているんだろうとは思うけれど。

頬杖ついて画面を眺める横顔を一瞥して、そろそろ触れようかと文字を綴る。けれどそれよりも、僅かに悟空の方が早かったようだ


―――――――――
そーいえばユキ姉、
天ちゃんはー?   既読4
――――――――― 8:22
―――――――――――
寝てるんだろ、どうせ。 既読4
――――――――――― 8:22
――――――――――――
既読4 寝てんだろうな。どうせ。
8:22 ――――――――――――
―――――――――――――
既読4 また徹夜したんだね、きっと
8:22 ―――――――――――――

――――――――――――――
私が答えるまでも無かった笑
そろそろ起こそうかと思ってる!
ちょっと行ってくるねーっ   既読4
―――――――――――――― 8:22
――――――――――――
いってらっしゃーーい!! 既読4
―――――――――――― 8:22
―――――――――――
ミイラ取りがミイラに 
既読3 なんなきゃイイけどな。
8:22 ―――――――――――

―――――――――――――
その可能性もなくはねぇな。 既読3
――――――――――――― 8:22

―――――――――――
無事に生還出来たら  
既読3 御祝いしなくちゃだね。
8:23 ―――――――――――
――――――――――――
あいつの寝起きの悪さは 
既読3 マジで手に負えねえからな
8:23 ――――――――――――

―――――――――――――――――
天ちゃんそんなに寝起き悪いんだ?
なんか意外だな〜         既読3
――――――――――――――――― 8:23
―――――――――――――
お前より手のかかるヤツだ。 既読3
――――――――――――― 8:23

――――――――――――
悟空は可愛いからいいの。
既読3 可愛いは正義。     
8:23 ――――――――――――
――――――――――――――――
イイ歳した野郎が寝起き悪いなんざ
既読5 めんどくせえだけだろ      
8:23 ――――――――――――――――

―――――――――――――――――
相変わらず失礼な人ですねぇあなたも 既読5
――――――――――――――――― 8:23
―――――――――――
あっ!天ちゃん起きた!
天ちゃんおはよーっ!! 既読5
――――――――――― 8:23
――――――――――――
おはようございます、悟空。
良い天気で良かったですね
絶好の登山日和じゃないですか 既読5
―――――――――――――― 8:23
―――――――――――
付き合わされるコッチの
身にもなりやがれ    既読5
――――――――――― 8:23
―――――――――――――
はあー、やっと起きてくれた 既読5
――――――――――――― 8:23

―――――――――
お疲れ様、ユキ  
既読5 意外と早かったね。
8:23 ―――――――――
―――――――――――
ココの通知が凄い事に
なってるよって言ったら
珍しく素直に起きたの笑 既読5
――――――――――― 8:23


天蓬の寝起きの悪さはピカイチだったのにねって。
画面から視線をあげて笑えば、彼も意外だと笑っていて
まえはいくら声をかけても夢の中からなかなか帰ってきてくれなかったのに。まああの頃は毎日のように徹夜を繰り返していたからなんだろうけど
今となってはその徹夜グセもなりを潜め、人間らしい暮らしを送ってるのだと
いつだったかその話をした時にユキが笑って言った
変わったのは私たちだけじゃない、から。

飲み終えたらしいカップを流しに持っていく、大きな背中。
机上に頬杖をついてなんとなく眺めていれば回った換気扇
あ、と思う間もなく振り返った捲簾が手招く

「ちょい離脱な。六花も吸うだろ」
『ん。今行く』
「あいつらも朝っぱらからヒマしてるよなぁホント」
『ふふ…今日は休みだからね。早起きなんだよ、きっと』
「悟空と金蝉があの山に登ってンのは、やっぱアレか?」
『そうだと思うよ。前に話した時悟空が言ってたからね』
「アイツが一番俺らの中じゃ律儀だよな。絶対」
『…"繋がり"の大切さを…きっと、一番強く望んでいたから』

同じタイミングで昇った白が数秒もしない間に吸い込まれて掻き消されていく
早いよなァと呟かれた言葉にそっと目を閉じた

気が付けば…私たちが奇跡的な邂逅を果たしたあの春の日から、もう3年の月日が流れていた。
途切れることなく、絶たれる事なく遺り続けていた縁の糸
それは再び息を吹き返しこうして新たな出会いを引き連れて繋がった
観音様に感謝した後はやっぱり次は神様に感謝かな?って
前にユキが笑って言っていたその言葉を、あの子はずっと覚えていたのだ

どうせ神様に感謝するなら高い場所に居る神様がいい!

って、その綺麗な金晴眼の瞳を輝かせて。

「…記憶はなくても覚えてんのかねェ…魂ってのは」
『…そうなのかもしれないね』
「なんつったっけ、悟空が言ってた神様の名前」
『ああ…確か富士山に関わる女神だったよね?』
「確かな。桜の樹が御神体なんだろ」
『そうそう。悟空が言ってた、桜の神様なのかは分からないけど』

鳴りやまない二つのスマホ。
ひっきりなしに高らかな音を放つそれに苦笑した彼が煙を絶つ
それに倣って私も昇る白を絶ち、手に取って再び画面を覗き見た
傍にいなくても感じ取れるぬくもりは…この時代ならではの魔法だなぁって
そんなことを思いながら


―――――――――――
んじゃっ、おれらは
そろそろ山登ってくる! 既読5
――――――――――― 8:37
―――――――――――――――
いってらっしゃーい!
金蝉途中でリタイアしないでね笑 既読5
――――――――――――――― 8:37
――――――――――――――
そこまで貧弱じゃねえよ。
山登りくらい誰でも出来んだろ 既読5
―――――――――――――― 8:37

――――――――――――――――
既読5 根っからのインドア派がよく言うぜ
8:37 ――――――――――――――――

―――――――――
いつの話だ。
知らんなそんな話は 既読5
――――――――― 8:37
―――――――――――――――――
金蝉ってもったいねーんだよなぁ
やれば出来んのにめんどくさがって
ほっとんどやってくんねーんだもん! 既読5
――――――――――――――――― 8:37

―――――――――――――――――――――
既読5 そういえば、2人は前に話した神社にいくの?
8:37 ―――――――――――――――――――――

――――――――――――――
あ、なんだっけ?
桜の神様とかそんなんだっけ? 既読5
―――――――――――――― 8:37
――――――――――――――――
うん!富士山んトコにある神社〜!
ありがとうございますって
お参りしてくる!!        既読5
―――――――――――――――― 8;37
――――――――――――――――
木花咲耶姫、でしたっけ。
でもどうしてそこを選んだんです? 既読5
―――――――――――――――― 8;37
―――――――――
…桜がイイんだとよ
―――――――――


その、言葉に。
きっと私たちが抱いた想いは同じなんだろうなって
ゆるりと瞳を閉じて、願う
思い出さなくたって構わない、忘れたままだっていいから
その記憶の中に刻まれたものなど何一つなくても

キミのなかに…ほんの少しでもいいから、愛おしさが遺されていたらいいな…って

悟空らしいなって。
小さく苦笑した捲簾の言葉に、また。
想いが溢れ出てしまいそうになるんだよ


―――――――――――――――
だってほら!
桜ってキレイじゃん!
それにそれに、桜って六花姉ぇの
イメージ強いんだもんっ     既読5
――――――――――――――― 8;37

―――――――――
それは光栄だね。 
既読5 私も好きだよ、桜が
8:37 ―――――――――

―――――――――――――――
だよね!!
俺、花とかよくわかんねーケド、
桜が一番好きなんだっ
六花姉ぇみたいで優しいし!   既読5
――――――――――――――― 8:37
―――――――――――
流石は悟空ですね。
感性が豊かといいますか 既読5
――――――――――― 8:37

――――――――――――
金蝉とは偉い違いだよなァ
既読5 少しは見習えよお兄チャン
8:38 ――――――――――――

――――――――――――
喧嘩なら買うぞ飲んだくれ 既読5
―――――――――――― 8:38
――――――――――――
でも桜か〜!懐かしいね!
再会したのも春だったし! 既読5
―――――――――――― 8:38

―――――――――――――
ん。2人とは真夏だったよね
既読5 もうあれから3年か…   
8:38 ―――――――――――――

――――――――――――
お参りしたらみんなにも
お守り買ってくるからさ!
お揃いのヤツ持とうぜ!  既読5
―――――――――――― 8:38
―――――――――――――――――
いいですねぇ。桜の神様なら、
僕らの願いも聞いてくれそうですし? 既読5
――――――――――――――――― 8:38

―――――――――
それは言えてる。 
一番信憑性高いよな
既読5 俺らにとっちゃ  
8:38 ―――――――――

―――――――――――
お願い事は何にする〜? 既読5
――――――――――― 8:38
―――――――――――――――――――
もっちろん!
みんなでずっと一緒にいれますよーに!! 既読5
――――――――――――――――――― 8:37
―――――――――――――――――
いいねそれ!
おじいちゃんおばあちゃんになっても
一緒にいれたらそれだけで幸せだわっ 既読5
――――――――――――――――― 8:38
―――――――――――――
だよね!?
だから俺、ちゃんとしっかり
お参りしてくるからさ!!  既読5
――――――――――――― 8:38
――――――――――
重大任務だよ!
悟空と金蝉に任せた! 既読5
―――――――――― 8:38
――――――――――
おうっ!!
まっかせてユキ姉ぇ! 既読5
―――――――――― 8:38


「…耐えろって方が、無理な話しなんだよなァ」
『―――…っ』

おかしいね。今がとても幸せなのだと言い切れる、のに

なんでかな。溢れ出る想いを止める術を…私はまだ、知らない。

画面が滲んでいくのを頭の片隅で理解する

あの頃と何一つ変わらないキミのその願いが

叶えることが出来たならどんなに良かっただろう

ずっとずっとって、

無垢で無欲なキミが…たった一つだけと、強く望んだその想いを。


―――――――
…一旦抜けるぞ 既読4
――――――― 8:41
―――――――――――
ええ…いってらっしゃい 既読4
――――――――――― 8:41
――――――――――――――
帰りに六花、お前の家に寄る。
それまでになんとかしとけよ  既読4
―――――――――――――― 8:41

――――――――――――
ああ。その代わり、暫くは
既読4 悟空離さねえだろうけどな
8:41 ――――――――――――

―――――――――――――
それなら、僕らも夜に
そちらに向かいますよ
皆で夕飯でも食べましょうか 既読4
――――――――――――― 8:41
――――――――――――
いいねそれ!絶対楽しい!
悟空はもう登ってるんだ? 既読4
―――――――――――― 8:41
――――――――――――――
ああ。意気揚々と猿みてぇにな
俺ももう抜ける。
また夜にな          既読4
―――――――――――――― 8:41
―――――――――
ええ。また、あとで 既読4
――――――――― 8:41


スマホを握りしめて、額に押し当てる。
苦笑する捲簾が撫でてくれた
幸せなのだと思えば思う程、止まらなくなる気がするんだよ

声にならなくて…けれど言葉にしたいと思うのに

喉元に引っかかったまま音にならずに霧散する


「…ずっと一緒にいてぇんだと」
『…う、ん…っ』
「まえも今も…アイツの願いはコレだけなんだよなァ」
『…っ』
「良かったじゃねえか。いまの俺らには、それが出来る」
『そう、だね』
「やっとだ…やっと、そんな時代に出逢えた。ジジィになってもウザがられても最期までしがみついてやろうぜ」
『しわくちゃなおばあちゃんになっても絶対に離してあげない』
「おーおー。悟空にとっちゃ願ったりなコトだろ、そんなん」
『まえも今も…本当に…っ、無欲な子だよね』
「俺からいわせりゃ、六花も似たようなモンだけどな」
『今の私は欲張りだよ。じゃなきゃ今だって泣いてない』
「ははッ、さいですか」
『さいなんで、すよ…っ』

変わらないでいてくれた。
その愛おしい姿も、切なくなる程に強い想いも
ありがとうって…ごめんねって
包み隠さず伝える事が出来なくても

この腕に抱きしめて届けと願うよ

音にならない、言葉にできないたくさんの想いを両手に。



彼らに出会えた奇跡も、彼女と出逢えた奇跡も。



3年分の感謝と愛しさを最大限に込めて



きっと私は笑うだろう。



大好きなのだと、伝えるだろう。





食卓を囲む大切な笑顔を思い浮かべながら、伝うそれを拭うことはせず


隣で笑う彼に抱き付いた






ありがとう、ありがとう。
それとごめんね。
幸せと引き換えに遺されたのがこの記憶だというのなら

一つ残らず呑み込むよ

そっと託された、繋がった大切な花を守る為に










私を忘れないで










あの花が持つ、意味を。

キミに伝える事はしないけれど


どれほどの時が流れていこうとも


覚えているよ。

最期の瞬間まで、ずっと――――…












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